66話 我が家
さあ、やっと自分の家作りに着手だ。
ま、そうは言っても、そろそろ日も傾いてきてるな。思ったより時間が経っているようだ。
別に、寝泊まりだけならストーンシェルで良いわけで、ここはじっくりと行こうか。
まず、広さはそんなに要らない。
外に出れば見渡す限り自分の土地なんだから、家はそこそこで良い。
塀で囲ったりして、隣の家との境界に気を使うような生活ではないのだよ。
大地収納があるから倉庫も要らない。
寝室に、一応居間も作って、台所に、トイレに、風呂、洗濯場、干し場。それくらいか。
室内では素足で過ごしたいな。三和土も作ろう。
代わりに、寝室と台所には土床を一部用意しておく。そうしないと大地収納が使えなくて不便だから。床下収納みたいな感じでいいだろう。ハッチ式の扉をつける。壺に小銭を貯めて夜中に数えたりするんだ。
風呂は露天がいいな。
さて、ここで、どれだけ神通力に頼って生活するか、を一度考えたほうが良いだろうか。
例えば洗濯。衣服を石化収納してそれを毎日コピーすれば、洗濯の必要なく新しい服に着替えることができる。
例えばトイレ。石で作った容器に入れてそのまま石化すれば、ただの石材に早変わり。
買ってきた料理を石化収納して、コピーしてしまえば、台所も不要。
でも、それはちょっと違うのではないか、と思ったりもする。
人に見られて、おかしいと思われるというのもデメリットではあるが、それでなくとも普通の生活は送るべきではないだろうか。
まあ、効率を考えれば、結局は楽なほうに習慣付けられて行く可能性も否定できないが。
我ながら迷走しているな、とは思うが、取り合えず当面は普通の生活を心がけよう。
となると、水場についてはしっかりと考えたい。
上水と下水が必要な訳だが、ここは崖に囲まれた立地で、川があるわけではない。
幸い、水捌けは良いようなので、水を溜める場所を確保しておけば、雨が降っても流れてくれるだろう。
問題は、下水垂れ流しは嫌だな、と思うわけで。
石化ですべてを無かったことにしたいと思う自分を否定できない。
まあ、ここはあれだな。とにかく密閉空間を作って、そこへ流し込みして、一年かけて堆肥化というのが良いのではなかろうか。
栽培の肥料にできるならそれもよし。
先入れ先出しになるよう、底にスクリュー式の搬送取り出し機能を付けて、手回しで堆肥取り出しができればシステムとして成り立つのではないだろうか。一年後の話になるが。
そうすると、堆肥の取り出し口の上に一年分の排泄物が溜め込める容器が必要になり、家はさらにその上ということになるな。
排泄物の中から水分を抜けるようにしたとしても、必要な大きさの分は高い位置に持って行くことになる。一日に1.5リットルのペットボトル分、と考えたとして、年間で600リットル弱。ドラム缶3本分だ。
そして、井戸は使い難くなるな。家の位置が上がるのも問題だが、水の中に下水が染み出してしまうと嫌だ。水の流れをきちんと把握しなければ。
「ふむ」
北側の壁に向けてアースソナーを発動する。
巨大な山脈の裾だけあって、探せば中に水脈が見つかる。
これを上水にして、水は壁から取ることにしよう。それなら間違いない。
もちろん、山の上にも生き物はいて、それらの排泄物が流れている可能性もあるが、浄水フィルターで妥協するくらいかな。細かく言い出したら井戸水も飲めないわけだし。
という方針で、良さげな場所を探し、壁の中の水源を探って行くと。
「温泉だ……」
水源とは別に、温泉水を発見した。




