51話 異世界竜語り。
「おーい、ヨシツグ。こっちにいるのかい?」
壁の向こうからシンディが声をかけてくる。
「おう。湯船に浸かってるから、入って来ても大丈夫だぞ」
後にして思えば、何でこんな風に言ってしまったんだろうな。
目の前に黒竜がいて、会話もなく歌い続けているのが居たたまれなくなっていたんだろうか?
まあ、それで遠慮なく顔を出すシンディもどうかと思うが。
そして。
「……ヨシツグ、あんたいったい何を……」
「ん?」
「いったいどこから女を連れ込んだんだい?」
となったわけだ。
湯船に肩まで浸かったニーナは、普通に人間の女性に見えたらしい。
「ヨシツグさん、不潔です……」
「おサルさんは目を離すとダメね」
「まったく、破廉恥ですわね」
シンディの言葉を聞いて、顔を覗かせたアイリス、ユキ、エレメアが続く。
「ほほう、雌がこれ程集まっておるとは、なかなかやるのう、ヨシツグ」
やめて、ニーナ。
久しぶりに見る、毛虫を見るような目が並ぶ様子は、おじさんの胸にもダメージあるの。
「と、いうわけで、闇の黒竜ニーナさんです」
ストーンシェル前に場所を移し、ニーナの紹介をする。
黒タイツの格好もどうにかならないか、と持ちかけた結果、黒いワンピースのような形状になっている。スカート丈は短い。まあ、下は鱗のタイツだしな。
竜からすれば、結局服は着てないことになるんだろうし。
「……漆黒のニンゼルクナルガ……」
おや、アイリスは知ってるのかな。
まあ、会話は弾まないようだし、さっさと料理を済ませよう。
女が3人集まれば姦しいとは言うが、5人もいると静まるらしい。
まあ、料理と言っても、シンディたちが獲ってきた大きなサソリを塩で焼くだけなんだが。
カニみたいだな。鍋にもしてみるか。良いスープが出るかも知れない。
毒を持ってるだろうから、尻尾は捨てておこう。血管毒なら食べても害にはならないとは思うが、今は遠出中だしな。
「うむうむ、やはり調理をすると味わいが変わるのう」
それでも、ニーナの評価は良いらしい。
完璧な調理を求めるタイプのグルメでなくて良かった。キャンプ飯で、手が汚れてしまったぞ、と怒鳴られても困る。
「そういえば、ニーナはこのあたりに住んでるのか?」
「まあ、この島じゃな。西の方にある、山が連なっておる所じゃ」
「えーと、もしかしてそれってストンフォレストってこと?」
「人族はそう呼んでおるの」
まさかのご近所さんだった。
「というか、島って言ったか? 大陸じゃなく?」
「大陸というには小さかろう」
ジェル大陸改め、ジェル島になった。
「すると、ニーナは海の向こう側にある大陸を知っていると?」
「もちろんじゃ」
やっぱりあるんだな、外の大陸。
「ちょっと待っておくれよ、竜がそんなあちこち飛び回ってるなんて聞いたこともないよ?」
「うむ、ほとんどの竜は山の上で力比べに明け暮れておるわ。出てくるのは妾のように、幻術に長けておるものくらいじゃな。普段は目立たぬように気を遣っておる」
今の姿も幻術で、本当は元の巨体が隠されていたりするんだろうか? いや、それなら椅子とか壊れてるな。変化する能力もあるってことか。
ちなみに、ニーナの話す言葉はハンドレッドの言葉だったらしい。なので他の連中とも会話が成り立っているが、聞き取りが難しいので心を読んで会話しているようだ。
日本人が英語のヒヤリングを苦手にしているようなものなのだろうか?
まあ、そんな状態なのに俺の話す言葉はドラゴンの言葉になっていたらしい。翻訳機能は良く解らないな。
「幻術など、そう珍しいものでもあるまい。そこにエルフの娘も居るではないか」
「エルフの幻術ですか?」
「おお、すまんの。秘密じゃったか? しかし、ヨシツグはもう気づいておるぞ?」
「ああ。ここに来る途中にエルフの森を通ったんだが、エルフの守りとかいうので近づけなかったやつのことだよな?」
「しかり。あれは世界樹の守りじゃな」
「世界樹?」
ってあれか。宇宙トネリコとかのデカイ木か。
「ほう、稀人はそのようなことも知っておるか」
「あの、稀人って?」
「む、これも秘密じゃったか。御主ら面倒くさいのう」
いや、こっちの台詞だよ。心を読んで失言しまくるもんだから、人間関係ズタボロになっちゃうよ?
異端審問とかされたら、どうするんだよ。
「竜も世界樹も、稀人を迫害したりはせんよ。じゃがまあ、人族のやっているファティマ教とやらには見つからん方がよかろうの」
そういうフラグ立てるの止めて貰えませんかね。




