49話 宗教国家ファティマ。
再び海岸線に沿って飛び続け、進行方向は西向きから徐々に南へと変わって行く。
右手の海にはそろそろ夕日の色味がかかってきそうだ。
左手は森を抜けて海岸が続いているが、陸側ではすぐに急峻な山岳地帯へと繋がっている。
ストンフォレストほどの連なりは無いようだが、同じぐらい高い岩山だ。
上のほうは真っ白になっている。万年雪かな。
「ここの山も高いな、こっちにもドラゴンとかいるのか?」
「この山はファティマ教の総本山だよ。天辺近くに寺院が建ってて人が住んでるはずさ」
「魔物も居ないわけではないと思いますが、神殿騎士団が守っているはずですよ」
そんな騎士団があるのね。俺としてはそっちもちょっと怖いよ。
滅せよ、とか言われそうで。
とっとと、通過するに限る、のだが。
「そろそろ日が落ちそうだし、この先で一旦、無理せずに野営の準備をしたいんだが、良い場所とか知らないか?」
「そうだねぇ。ファティマとラフウッドの国境あたりなら、トラブルに巻き込まれる可能性も低いんじゃないかい?」
「え、どこか街とか近い方が良いんじゃないの? 山賊とかいない?」
「そのくらいは、私たちが居れば問題ないわね」
ソウデスネ。あなた、ジャングルの大帝様でしたね。皇帝より強そうだ。
国境になるという川を見つけて着水。
広く平地が続いているが、森や草地にはなっていない。
「荒れ地だな、こりゃ」
「この辺りは、あまり豊かな土地ではありませんね」
ハンドレッドとか、そこいら中に草なり木なりが生えてるもんな。
そんなわけか、川の下流域であるのに、近くに人の住む集落などは見当たらなかった。
「さて、そんじゃ何か獲物でも捕ってくるか」
陸に上がって体を解しながら、そんなことを言うシンディ。
「いや、食料は一応持ってきてるぞ?」
荷物袋に余裕をもって三日分ほど。大地収納には肉ならたくさん。
「狩れる時には狩っておくもんさ。食料の節約になるし、危険な魔物が居るなら先にやっておいた方が良い」
殺るんですね。危険なら手を出さなきゃ良いのに。
「あんたは、泊まる場所と風呂の用意でもしててくれればいいさ」
と、そんなことを言って、4人そろって荒野の方へ。
残された俺は、任された通りに野営の準備をする。
まずはストーンシェル。
川と陸の間には段差ができていたので、すぐ近くに設置。
もちろん、男性用と女性用は別だ。俺用はいつもの2畳サイズ、女性陣用は8畳の大型ストーンシェルだ。
出入りの度に俺が変形させるわけにもいかないので、開口部を川側に開けてドアをつける。
蝶番を石で作るのは無理なので、太い丸棒で支えて上下で挟む。
ドアの外で火でも焚けば、獣は避けられるだろう。
あれ、薪が無いな。今度石化収納しておこう。それくらいなら収納コピーで増やしても良いだろう。
今回はしょうがないので無しで。
川の段差を降りたところでストーンウォール。川原に風呂桶を作る。慣れたもんだ。
ちゃんと目隠しも作る。ストーンウォールで囲って、出入り口の開口部前にはもう一枚の壁。
自分だけ覗けるように、なんてしないよ?
風呂桶にマグマ投入で温泉に。
酸性湯でお肌つるつると喜ぶが良い。
明日の朝に肌ダメージが大変だろうけど。
海側には壁を作らず、露天風呂のビューを確保。
海の見える温泉って良いよね。今なら丁度良く夕日が楽しめる。
そこで、アースサーチで状況確認。シンディたちはずいぶん遠くまで行っているな。何か獲物を見つけたようだ。
じゃ、風呂は先にいただくことにしよう。作ったの俺だけど。
「ふぅ」
沈む夕日を見ながら、明るい内からの露天風呂。
冷たい飲み物とか欲しい、と思うのは贅沢か。
コーヒーならまだあったはずだけど、温泉でコーヒーってのもな。コーヒー牛乳なら良いんだけど。
そんなことを考えつつ、露天風呂と言えば定番のアニソンを歌っていると、いきなり夕日の赤い光が黒に置き換えられた。
一拍遅れて、強い風が吹き荒れる。
風が収まり、目を開けると、目の前にいたのは漆黒のドラゴンだった。
ドラゴン。
多くのファンタジー世界では最強生物。神でも殺してしまう。
サイズは大きく、目の前の黒竜も頭頂部は10mくらいの高さにある。
長い尾と背中の翼はさらに体長を伸ばすだろう。
鱗を纏った爬虫類のような体は、太い胴体に鋭い爪の短めの手足。
「誰が胴長短足じゃ」
あれ、なんかデジャブな感じ。




