48話 本日の世界情勢は。
左手に森、右手に海を眺めたまま、進路は北西へ。
森が続く状態に変わりはないが、少し雰囲気に違いが出る。
なんというか、これまでより森の色が薄くなったというか、明るくなったというか。
「この辺りからエルフの森ですわね」
「森がずっと続いてるけど、獣人の森とエルフの森って、境界線とかないのか?」
「エルフの森には森の守りがありますのよ。その範囲をエルフの森と呼んでますわ」
「それだと、エルフが守りの範囲を増やしていくと、獣人が森から追い出されるってことになるんじゃないか?」
「人族ではあるまいし、エルフ族がそんな真似はしませんわよ。エルフはエルフの森を守護する存在ですもの」
そんなもんかね。というか、人族なら侵略戦争とかしてるってことか?
「領土拡張をしようとしているのは、大陸南西部のラフウッド帝国ですね。もともとは小国が点在していたのですが、それらを纏めあげたのが現在の帝国になります。ですが、サウザンドとハンドレッドが同盟を組んだことで、帝国からの侵攻は起きていません」
「帝国はエルフの森には手を出さないのか?」
「帝国とエルフの森との間にはファティマ教国があります。主神ファティマを奉る総本山ですので、帝国も手は出せないでしょう。ファティマ教自体もエルフの教義とも繋がるものなので、森に手を出すことはありません」
なるほど、アイリスぺディア先生は博識だな。
ハンドレッド王国、サウザンド王国、ラフウッド帝国、ファティマ教国の4つが人族の国で、それとは別に獣人の国とエルフの国があるってことね。
この後はエルフの森を通って、ファティマ教国、ラフウッド帝国の海岸線を通って行くわけだ。
その前に、エルフの森の北にある半島が見えてくる頃か。
半島に沿って北上するというのもありではあるが、今回は当初の計画通りそのまま西へ突き抜けることとする。
が。
「うん? 見えてこないな」
コンパスはもう真西を指しているが、まっすぐに海岸線が続いている。
一度降りて場所を確認した方が良いだろうか?
「エレメア、今どの辺か判るか?」
「わたくしも、空から森を見たことはありませんのよ?」
次の一瞬、着水しようと考えていた海が消え、目の前が森で満たされた。
「なんだ、どうなった?」
ずっと遠くまで森しか見えない。これでは森が邪魔で着陸もできない。
「エレメア、どうなっている?」
「まあ、空を飛ぶとこのようになるのですね」
そんなわけあるか。普通に異常事態だよ。
「方角を示す装置がありますのでしょう?」
そう言われてコンパスを確認すると、進行方向が南を指している。
コンパスまで狂った? いや。
マイ・ジェットを180度回頭させるとコンパスが北を指す。
すると前方では森の向こうに海が見えた。
「そういうことか、方角が変わったんだな。でも何で?」
「これがエルフの守りでしてよ」
勝手に迷うやつ? 回転床みたいな感じ? 空飛んでても効くの? それ。
「エルフの森に、これ以上入ることはできませんわ。真っ直ぐ北ではなく、少し西よりに飛びなさいな」
「あ、ああ」
エレメアの導きに従い進路をとれば、問題なく再度海岸線に出る。
そこから回頭して西方向へ。
「エルフの森か。魔法的に何か、まやかしになってるってことか」
アースサーチで調べた大陸の形と明らかに違って見えている。視覚情報が信じられないようだ。
そんな状態で飛ぶのも怖いので、さっさと離れることにしよう。




