44話 まさしく鳥人間。
サウザンド王国に入ってからも進路は北へ。
国が変わっても、ハンドレッド王国とはあまり違いは感じない。
友好国とかいう話だし、文化交流も盛んだということか。
しばし飛び続けると、次第に進路は北西へと変わってくる。
10曲くらい歌った。フルコーラスで。
そして広がる森。ここからは樹海と言って良いほどに見える限りが森だった。左側は。
地下に軍事基地でもありそうな雰囲気だな。人型巨大ロボットの。
そんな折り、森の中から飛び立ってくる群れ。
鳥でも驚かせてしまったか?
「ちょっと避けるぞ」
後ろに声をかけて、進路を修正。急な方向転換で機体が傾く。
こちらの方が飛ぶ速度は早いだろう。ぶつからないように避けて行けば良い。
と思ったのだが、群れの中から一匹が飛び出して、追いかけてくる。とんでもなく早い。
一匹と呼ぶべきではないか。それは槍を持つ手が生えた、鳥っぽい人間に見えた。
鳥人間は、とうとうこちらを追い越して、マイ・ジェット前方から機体正面に着地する。
危ないぞ? ジェットエンジンのファンに巻き込まれて毎年何匹の鳥が死んでると思ってるんだ。
まあ、しょうがないのでジェットの出力は落としている。危ないから近くは飛ばないで欲しい。
鳥人間は正面のガラス越しになにやら叫んでいるようだが、生憎聞こえない。
こっちも手を降って、退いてくれと伝えたいんだが、伝わらない。
挙げ句に手に持った槍を振りかぶって、ガラスを割ろうとして来る。
掌を向けて止めろ、と伝えた。こっちは通じた。良かった。
「仕方がないわね。一度下に降りてくれる?」
ユキがそう言って鳥人間に対してなにやら身振りをする。鳥人間も大きく手を動かして返す。そんなやり取りを繰り返し、最期に大きく頷いた鳥人間は、そのままマイ・ジェットを先導して飛ぶ。
今のって、手話か何かかなぁ? 全身を使ってダンスでもしてるのか、はたまたパントマイムで伝言ゲームでもしてるのかって様相だったが。
ユキが鳥人間と向き合って、真面目な顔で踊っている姿はなんか面白かった。
鳥人間の案内に従って行くと砂浜があった。
森の切れ目が海まで下がって、そこに砂が溜まった感じの小さな隠れ海岸だ。
マイ・ジェットで海に着水して浜に上がると、地面に降りた鳥人間の一団が並んでいた。
「鷹人族戦士長サンダガだ」
「猫人族族長ジャブルの娘、ユーフィリアよ」
さっきの鳥人間とユキが両手を前に合わせてそれぞれ名乗る。
名前がちょっと違う気がする。
「なあ、ユーフィリアってユキのことなのか?」
困ったときのアイリスぺディア先生だ。
「え、ヨシツグさん、獣人族の言葉が判るんですか?」
ん? 今普通に話して……ああ、これって自動翻訳機能なのか。
相手の話す言葉が全部理解できてるわけだ。
「アイリスは話せないのか?」
「さすがに無理ですよ」
「あたしも、ちょっとな」
シンディも無理、と。エレメアは……相変わらず我関せずって顔だな。
「おい、そこの男」
鳥人間のサンダガが俺の方に言ってくる。
言葉がきつい。
どうして、最近知り合う奴は敵対的なんだろう。
ニュアンスの違いまではっきりと伝わる自動翻訳はすごいと思うが。
「貴様はなぜ姫様と共に居るのだ」
姫様って……シンディのことじゃないよな、これ。
「やめなさい。その男は人族の街で雇った護衛です」
「いや、違げーからな。俺がメイン、こいつらがおまけで引っ付いてきたんだからな」
「姫様がおまけだと、貴様は何様のつもりだっ。姫様を指差すなっ」
ここで俺様だー、とで名乗れたらカッコいいんだろうが、やめておこう。怖いもん鳥頭。
俺様には無理。
と、そんなやり取りにユキが驚いた顔。
「あなた、獣人族の言葉が話せるの?」
なんだ、今気づいたのか。遅いな。
というか、俺が話した言葉も自動翻訳されているらしい。
話す相手に合わせて、判断されるってことかな?
「姫、護衛であれば是非我が一族の戦士をお連れください。このような人族より役に立ちましょう」
ほーら、こうなった。ユキが悪いな。
その場しのぎで、なんやかやと断りを入れようとしても、鳥頭は聞き入れない。
というか、3回会話を交わすと話題が元に戻ってるな。さすが鳥頭。
「ならばっ、この男には我が一族戦士の試練を受けさせ、実力を示していただくっ」
おや、やっと新しい話題が出たか。
……なんて?




