3話 異世界に来ちゃいました。
「知らない空だ。……いや、逆に知ってる空ってなんだよ。知らない森だよ」
光が収まったあと、俺は森の中にいた。
「ここが異世界か」
とりあえず、草や葉っぱは緑色だ。木の幹や地面は茶色だ。青や紫でなくてよかった。だから、すぐに今いる場所が森の中と判った。
青かったら美術館かと思うところだ。
問題は、絶賛遭難状態にあることだなぁ。
とにかく、落ち着こう。こういうときは状況確認が大事だ。
3の法則だ。一つずつチェックして行けば落ち着く。安心できるからな。
その1。空気がなければ3分で死ぬ。
呼吸は正常だ。息苦しくない。木もたくさん生えている。森林浴だ。マイナスイオンだ。
その2。温度が維持できなければ3時間で死ぬ。
今は昼のようだ。周囲は明るい。空が見えているから、森の中でも拓けたスポットなのだろう。天気は良い。雲一つない。
夜になれば冷え込む可能性もあるが、これだけ植物があるのなら、そんなひどくはならないのではないだろうか?
現在の服装は、手触りのごわごわしたTシャツっぽい服と、同じ素材の膝丈ズボン。靴も履いてはいるが、厚手の靴下という感じだ。ガラスの破片でも踏んだら刺さりそう。ガラスがそこらに落ちているかは知らないが。
色は薄茶色。染めたりはしていないのだろう。まるでゲームの初期装備といった感じだ。もちろん、職業未取得状態の、だ。
おそらくは、この世界で目立たない格好ということなのだろうか。ファンタジー小説風の文化レベルである可能性が高くなった。
気温は少し暑さを感じるくらい。今は夏なんだろうか?
残念ながら、荷物と呼べるものは何もない。文字通り着の身着のままだ。
その3。水が無ければ3日で死ぬ。
うん、サバイバルっぽくなってきたな。なにせ森だ。水が無い、なんてことは無いだろう。飲めるかどうかはまた別だが。とりあえず川なり湖なりを探す必要がある。第一目標だ。
その4。食料がなければ3週間で死ぬ。
人里が見つかればなんとかなるだろうか? とはいえ、お金があるわけでもない。むしろ、森で食べられるものを探すほうが良いだろうか? 果物でも見つかれば良いのだけれど。そうすれば水の問題も解消できる。
そこまで考えて、自分のミスに気がついた。
3の法則の前に、身の安全の確認が先だった。危険な獣にでも襲われたらそこまでだ。
ここはただでさえ開けている。俺は周りに生えている木の中で比較的太い木の元へと移動した。
木の根本付近には葉の大きな草が生えている。茎は長い。木と草の間にできている空間に座り込み、身を隠した。外にいるよりはマシだろう。
ちょうどそこには半分土に埋まった木の枝があった。掘り起こして武器にする。素手よりはマシだ。
掘り起こした下には小さな虫がいた。ダンゴムシだろうか? 日本とあまり変わらないな。本当に異世界か?
耳をすましてみる。なにやら鳥っぽい鳴き声が聞こえる。
鳥の鳴き声と言ったが、凶悪な顔の宇宙人が会話しているみたいにも聞こえる。地球と同じだ。
水を探さなければいけないわけだが、水の音ってどんなだろうか? 大きな滝でもあれば分かりやすいのかも知れないが、そんな音は聞こえなかった。
とにかく、行動しなくては始まらない。救助の当てがあるのなら、遭難したときは動かないという選択肢もいいだろうが、それが期待できないのであれば待つというのは愚策だ。すぐに行動しなければならない。
時は金なり、どころではないな。命がかかっている。
しかしその前に、だ。
「石長比売の加護を」
意識するために言葉に出してみる。そうすると、単語が4つ頭に浮かんだ。
不老永命。
大地変容。
大地収容。
大地知覚。
「これが加護ってことか。言葉だけではよく判らないな」
不老永命。これは不老不死の代わりにもらったものだろう。輪廻転生を否定して生き続けることができるはず、ではあるが試しようがないな。不死ではないなら刺されたら死ぬんだろうし。クワバラクワバラ。
大地変容。文字を読む限りでは、地面の形を変える?
近くにあった石を拾ってみる。水切りで投げる程度の小さな石だ。
「大地変容」
言葉に出してみる。すると何だろう、石が柔らかくなった気がする。
細長い棒をイメージする。すると、石の形が棒になった。棒というよりは串くらいの大きさだが。
「おおー、これが神通力か。魔法じゃん。やったぜ32歳」
テンションが上がってきたよ。




