21話 諦めしもの。
そんなこんなで、俺は一人ダンジョンの入り口にいる。
もちろん、石のダンジョンだ。
死にたいのかって? 戦うのは無しだ。それは大前提。
まあそれでも、できることはある、と思ったんだよ。
心残りをずっと残したままで長生きできるほど図太くはなれないんだ。
そこはもう、諦めるしかないな。
地面に膝を突き、手を当てる。意味はないが、こうする方が集中できる気がする。
「アースサーチ」
前にも確認した通り、ダンジョンの形状が立体マップとなって脳裏に浮かぶ。
階層は、全11階層。間違いない。
最深部である11階層は、大きな広間といくつかの小部屋で構成されている。
動いている存在は、ない。
細かい形状までは判らないな。アースサーチは自分を中心にしか表示できない関係上、離れた位置を見ようと思うと、どうしても大雑把になる。
10階層にも動くもの、なし。
9階層にも反応、なし。
8階層から徘徊しているモンスターが居ることが判る。まあ、判るのは地面に足を着いて移動している何かがいる、というだけでしかないが。
10階層と9階層に反応がないのはどういうことだろうか?
モンスターが居ないなら良いが、生きている人間も居ないってことになる。
さて、とにかくまずは第1階層からだ。
アースサーチの範囲を狭める。確認するのは第1階層と、下の第2階層だ。
「モンスター、良し。通路、良し」
指差し確認完了。
「アースホール」
ダンジョンの床に、下の層までぶち抜く大穴を開けた。
穴を開けたら飛び降りるだけ。気分的には二階から飛び降りるようなもの。以前なら怪我のリスクを考えるところだが、今の体は高性能で、キチンと着地できる。
想定外であったのは、開けた穴がすぐに塞がってしまったこと。
ダンジョンの復元力というやつか。
一度、浅めに穴を開けてみる。その中に銅貨を一枚落とす。
穴が復元されたが、銅貨は床の上にせり戻された。
「最悪、埋まって死ぬことはないか。でも逆に、ダンジョンでは落とし穴作戦が使えないことにならないか?」
俺のいつもの戦法は、穴に落として埋めるか突き刺すか、だ。
すぐに復元して脱出されるのでは、お手上げになる。
ストーンニードルも使い勝手が悪い。いろいろ確認してみたところ、形状を変化させるスピードはけっして早いものではない。
動いている相手に当てるのは、拳で殴って当てる程度には難しく、向かってくる相手を迎え撃つカウンター攻撃、というのがメインの戦法になる。
槍衾的な。
そして、ストーンニードルもダンジョンの復元力の対象になるようで、槍衾を設置してもすぐに消えてしまうのだ。
誰だよ、土魔法がダンジョンに向いてるって言ったの。
……まあ別に、俺に出来ることは変わらない。
「モンスター、よーし。下の通路、よーし。アースホール」
穴を開けて下の階へ。それを繰り返すだけだ。
第8階層から第9階層へ。ここからはモンスターの反応がない。
通路の確認だけして、アースホール。そして飛び込む。
着地したのは第9階層の床、ではなく、羽根の生えた丸い生き物の背中だった。
「げ、やばっ」
「ギャァァァァ」
飛行モンスターだ。
モンスターは背中にしがみつく俺を振り落とそうとしてくる。
ここは第9階層。見た目ひょうきんでも強いんだろうな、こいつ。
戦うのは無し、だ。
大きく羽ばたいた時に合わせて、自分から飛び降りる。
床に着地すると同時にアースホール発動。
「あばよ、とっつぁ~ん」
すぐさま第10階層へと脱出した。
第10階層は、明るく発光していた。
落ちて行く床にはマグマ。
「地面が熱いってレベルじゃねえだろ、マスターのアホー」
水路のようになっており、マグマを避けて歩くことはできるようだが、落ちる真下はマグマの川だ。
「あぁらぁぁぁ」
このままでは、マグマの中に落ちて死ぬ。
「収納っ」
マグマを収納。成功。
溶けていても岩として扱ってくれたようだ。
マグマが全て消えた底に着地する、が。
「あち、あち、あちち」
革靴でも耐えられない程に床が熱い。
一度消えたマグマも、再び流れ込んでくる。
「収納、収納、収納ぉ」
ゆっくりと近づいてくるマグマを再度収納で消しながら、坂を駆け上がる。
「あー、死ぬかと思った」
安全が確保できた先は、下へ降りる階段となっていた。
第11階層へゆく道だ。




