10話 異世界の街。
ファーレンは立派な石壁で囲まれた大きな街だった。
外壁は工事中とか言っていたから、場所によってはとりあえずの壁でしかないのかもしれないが。
入り口には門があり、門番が立っている。森から南下してきたわけだから、街の北門ということになるのだろう。
そこで、4人娘は身分証明書のようなものを見せて通過。
俺は別室へ連れて行かれた。
「移民者かい?」
木のテーブルが並ぶ一室で座るように促され、対面には若い兵士が一人。
事情聴取といったところか。個室ではないが、周囲には同じ格好-揃いの鎧だな-を着た兵士が何人も居る。暴れようものならすぐに取り押さえられるだろう。そんな予定があるわけではないが。
「私はただの旅人です」
用意しておいた身分を名乗る。
「ただ、この街でしばらくお金を稼ぎたいと思っています」
「そうか。人手は大歓迎だが、それなら出稼ぎ扱いってことでよいかな?」
まあ、俺としては何でも良い。うなずいて答える。
「それで、何か仕事のあてはあるのかい?」
「土魔法が使えます。それで、どんな仕事があるかお聞きしても良いでしょうか?」
「そうか。なら仕事には困らないだろうが、日雇いの形になるな。どんな仕事があるか、毎日中央広場の酒場で掲示される。それを見るのが良いだろう」
そう言うと、一枚の紙片を机においた。
「名前は書けるかい? できないなら代筆もするが」
紙、と思ったがこれは板だろうか。とても薄いので木ではないと思うが。プラスチックのように見える。あるのか? プラスチック。
いや、ここは前向きに考えよう。プラス思考だな。プラスチックに考えよう。あるものはあるのだ。
プラスチックカード、と思おう。
カードには文字が書いてある。……読めない。
どうやらできるのは会話だけ。言葉が自動翻訳コースの可能性が出てきたな。
しかし、言い方からすると、文字が読めない人間も普通にいるようだ。ここはお言葉に甘えるか。
日本で名前が書けないなんて言ったら、どれだけ拘束されるか判らないところだ。
「代筆お願いします。名前はヨシツグ、です」
兵士はそれを聞くと、インクと羽ペンでカードに文字を追加した。
この文字並びがヨシツグ、と読むのだろう。丸暗記するしかないな、こりゃ。
「じゃ、このカードは身分証になるから、失くさないようにね。門の出入りに使えるし、仕事を受けるときには提示するように」
そう言ってカードをこちらに差し出してくる。
「では、ようこそ、ファーレンの街に」
こうして、俺は異世界の街へと入ることができたのだった。




