この部屋で暮らしていたんだね
「夜会は、どうでしたか、ゴーリュン?」
「ん〜〜、いろいろとあったけれど…」
「あったけれど…?」
「それ以上に、国王陛下が、予想以上に
個性が強すぎて、驚いたかなぁ」
「まあ! お父様に驚かれましたか?」
「うん、驚いたよ…!」
「あらあら!そうね、威厳はあるのだけれど
イメージが崩れてしまいますわよね?」
「うん、正直、うん…」
お父様は、普段の威厳がある姿なら、国王陛下だと、すんなり納得いたしますけれど………
子煩悩すぎて、はしゃいでしまわれるのです。
ああ見えて、息子娘を政略のために使う時は、躊躇がないのですけれど…
お母様もお兄様も呆れてしまうくらい子煩悩ということが、分かりましたね。
「ふふふ、お疲れさまでした」
「こちらこそ、お疲れ様でした」
リュディヴィーヌとゴーリュンは、
夜会終了後に、王城の一室に案内された。
ここは、養女になる前に、リュディヴィーヌが住んでいた第一王女としての部屋だ。
マーリックは、実家へと帰省中のため、今は、この夫婦ふたりだ。
のんびりと、ゆったりと過ごしている。
「この部屋で暮らしていたんだね」
「ええ、そうよ」
「当時のままなのかな?」
「ええ、当時のままみたいね」
「青紫だね………?」
「え、ええ、偶然なのだけれど
もともと、青紫が好きなの」
「だからなんだね?嬉しいなぁ」
「なんだか、恥ずかしいわ」
「ふふ、俺は嬉しいよ」
幼少期から養女になるまでは、ずっと暮らしていた部屋は、神秘的な青紫色でした。
カーテンもベッドも、飾られているものまで。
そう、ゴーリュンの瞳と同じ色彩の。
「これから、冬なのよね」
「ああ、そうだね、冬は王都より寒くなるから、マーリックには慣れないかもしれない」
「ええ、マーリックは、驚くでしょうね。
去年、初めて、寒すぎる冬を経験したもの。」
「今年は、一緒にぬくぬくしようか」
「ふふふ、ええ、ありがとう」
王都と比べると、辺境伯領の冬は寒い。
雪が多く積もるくらい、大変な地域なのだ。
それでも、ゴーリュン達の騎士団や警備部隊、冒険者ギルドの冒険者達は、大雪のなかでも、街の見回りは欠かさないらしい。
吹雪の中であっても、国防強化のために活動を怠ってはならないのだ。
「ゴーリュン、春になったら
また、海辺にお散歩に行きませんか?」
「海辺に!? うん、一緒に行きたい」
このふたりにとって、大海原を見に行った日は関係が進歩した記念日といっても良い。
春に、その海に、また行きたいと思ったのだ。
なぜ、春頃なのかというと、私達にとっては、ちょうど良い季節であるからだ。
夏の海は領民で賑わうため、まだ、人の少ない春の方が、ゆったりと過ごしやすい。
「ふふふ、今度は、
マーリックも連れて行きませんか?」
「それなら、毎年、春くらいになったら、家族で海に行く日を作ろうか?」
「まあ! それは、素敵ね!」
「もしかしたら、いずれは、
俺達に、家族が増えているかもね?」
「か、家族が!?
そ、そうね、増えているかも?」
「ふふふ、毎年の春が楽しみになるね?」
「ええ、そうね、本当に、楽しみよ」




