妹の初恋の相手なのよ
「ゴーリュン」
「うん、何かな?」
「アメリーズ子爵令嬢の事を聞きたいの。
彼女のことは、ご存知なのね?」
「うん、知ってるよ。
5歳くらいの時だったかな?
実家に、当時は、まだ、2歳だった子爵令嬢をアメリーズ子爵が連れて来たんだ。」
「ゴーリュンの幼馴染と言っていらしたけれど、幼馴染なのは、本当なのね。」
「うん、確かに、幼馴染だけれど…」
「だけれど…?」
「どういう関係なの、養父上?」
「そもそも、アメリーズ子爵令嬢のことを名前で呼んだことがないよ?向こうは、ゴーリュン様って呼んでいるみたいだけれど…」
「まあ!そうなの!?」
「えっ!?」
「カイオン師匠に弟子入りして、実家とは疎遠になってからは、15歳くらいから、全く会っていないはずなんだけれど…」
「あら、弟子入り…」
「つまり、10年も前から、疎遠に?」
「あちこち、旅はしていたけれど、シャイリーン辺境伯領には、全く寄らなかったから」
「そうなのね?」
「それは、不思議だね?」
10年以上前から会っていない幼馴染の少女が何も連絡無しに訪ねて来るなんて…
しかも、ゴーリュンのことを調べていなかったようですから、変な勘違いをしていました。
「アメリーズ子爵令嬢は、シャイリーン辺境伯家嫡男と婚約者なのは、本当かしら?」
「うん、5年以上前から、婚約者のはずだよ。」
「5年以上も経って、22歳になっているのに、婚姻をしないということは、その二人は婚姻をするつもりはあるのかしら…?」
「こうなった以上、さすがに政略結婚でも無理があるから、婚約破棄かもしれないね。」
「……難しい問題ね?詳しくは、ジュリオーンに連絡して、手紙で聞いてみましょうか。」
ジュリオーン本人に
確認した方が良さそうな感じよね?
もちろん、このことは、シャイリーン辺境伯とアメリーズ子爵にも聞くことになるはず。
こうなったら、お兄様にも、連絡を入れた方が良さそうかしら…?
「ジュリオーン?」
「ええ、そうよ、シャイリーン辺境伯領内のことですから、彼に聞いた方が早いでしょう?」
「リュディは………
ジュリオーン様と知り合い?」
「ええ、お兄様の親友ですもの。」
「なるほど、王太子殿下の…」
「ジュリオーンとわたくしは、幼い頃から知っているから、幼馴染と言っても良いのかしら。」
お兄様の親友は、王太子殿下ですから、厳重に調査されることになります。
ジュリオーンは、その中でも、特に信用されていますから、弟妹たちへの紹介がされました。
「幼い頃は、婚約者候補の一人でしたよ。」
「えっ!? そうなの?」
「わたくしは、こちらに、養女として行くことが決まった時点で候補から外れましたが。」
「そうなんだ…」
「次に、公爵家の次男坊が、婚約者候補に上がりましたけれど、それも外れました。」
「公爵家の次男坊…?」
「ええ、トルコニオ公爵家の次男ライアンよ。」
「ライアン様…」
トルコニオ公爵家の次男ライアン。18歳。
王族特有の金髪碧眼、わたくし達、王家の5人兄妹の、父方の再従兄にあたる青年です。
わたくしの弟、ガイラール第二王子と同い年で仲が良い人です。今は、王太子殿下である兄の補佐官として、働いています。
「養母上、ライアン様って、どんな方?」
「ライアンは、父方の再従兄にあたるお方よ。
侯爵位をもらう予定で、妹のカールメリッサの婚約者になることでしょう。」
「カールメリッサ様の婚約者に?」
「ええ、そうよ。」
カールメリッサの初恋は、ライアンだ。
妹は、兄姉の幼馴染で、再従兄弟のライアンに憧れて、恋に落ちました。
その姿は、恋を知らないわたくしにとっては、新鮮な表情ばかりで………
「ライアンは、
妹の初恋の相手なのよ。」
「それは………」
「それを知らないお父様、お母様は、わたくしの婚約者として、ライアンの名を出しました。」
「ああ、うん、姉妹仲が拗れそうだね…」
「妹は、泣きそうな表情でしたわ。わたくしに、ライアン様を取らないでと言っていました。」
「ああ………」
「でも、カールメリッサは、政略結婚の婚約は、王女として当たり前のことだから、と我慢していました。わたくしは、妹の初恋を、応援していたのですけど、王女としての役目ですから、お父様、お母様には、何も言えなくて…」
「リュディ………」
カールメリッサは、酷いお姉様だと思っているかもしれませんが………
ライアンと婚約破棄して良かったと思います。
妹の初恋を、邪魔したくなかったのです。
「だからこそ、ライアンに妹の事をお願いして、辺境伯領に住むお方を婿にしたい、と希望してみたのですよ。そしたら、ゴーリュンが選ばれました。当時は、よく分からないまま、女領主として関わりましたが、あなたが、わたくしの初恋で、本当に、嬉しいですよ。」
「リュディ………初恋を………本当に、有り難う。
希望してくれて、ありがとう。」
「養母上! 僕からも、ありがとう!」
「ふふ、ふたりとも、ありがとう。」




