第一王女専属の諜報員よ
「そ、それは…!」
「アメリーゼ子爵令嬢、シャイリーン辺境伯家の方々に対しても、そのような態度なの?」
「い、いえ、そういう訳ではないわ………!」
「あら、そうなの?本当に?」
「シャ、シャイリーン辺境伯家の次期領主様は、私の再従兄で、婚約者なのですわ!」
「あら、貴女、ジュリオーンの婚約者なの?」
「えっ!?ジュリオーン様をご存知なの!?」
「ええ、もちろん、知っているわ。」
シャイリーン辺境伯家の嫡男、ジュリオーン。
彼は、王太子殿下であるお兄様の親友だ。
だから、わたくしも、幼い頃から交流がある。
ジュリオーンは、彼は、アメリーズ子爵令嬢のような気質のご令嬢は苦手なはず。
………なるほど、アメリーズ子爵令嬢が、身近にいたから、苦手になったのね。
「わたくしの兄とジュリオーンが、親友同士よ。
わたくしも、幼い頃から交流があります。」
「そ、そうなの…!?
それは、知らなかったわ!」
彼女は、ジュリオーンの婚約者のはずなのに、王太子殿下と親友だと知らないらしい。
それを知らないということは、ジュリオーンに信用はされていないということだ。
ジュリオーンが、お兄様やわたくしに婚約者をまったく紹介しなかった理由も察しました。
王族に対しての礼儀作法を知らないからね?
「アメリーズ子爵令嬢」
「え、えっ? な、何かしら?」
「次期辺境伯であるジュリオーンという婚約者がいながら、既婚者のゴーリュンに想いを寄せているのは不誠実でありませんか?」
「そ、それは………」
辺境伯となられるジュリオーンの婚約者なら、信用が第一、誠実さを求められる。国防を強化されている地だからこそ信用できる者を選ぶ。
彼女は、次期辺境伯の妻には向かないだろう。
スパイや暗殺者など、厄介な天敵に気付かないまま、引き寄せてしまいそうだ。
むしろ、次期辺境伯の妻より、領地を持たない王都にいる貴族の夫人として、のんびり生きた方が良い気がするのだが………
「次期辺境伯との婚約破棄を恐れているのなら、こういうことをしてはなりませんよ?」
「は、はい……」
「残念ながら……アメリーズ子爵とシャイリーン辺境伯家には、伝えなくてはなりません。」
「えっ!? そ、そんな………!」
「この領地にいる間と、貴女の実家に帰るまで、見張りをつけさせて頂きますよ?」
「み、見張りを!?」
「ええ、今夜は、指定の旅館に泊まって、明日の昼過ぎから、ご実家に向けて、帰りなさい。」
「か、かしこまりました………」
ここまで言ったのに、謝罪は無く………
しばらくは、彼女には見張りをつけますので、何かありましたら、報告が来るでしょう。
ちなみに、見張りをするのは、王家から着いて来た諜報員の男女ふたりです。暗殺者のような雰囲気ですが、暗殺者ではありません。
彼らは夫婦で、女領主となる私に仕えたい!と熱心に語って下さいました。
忠誠心が熱い夫婦なので、このようなお仕事を頼むのは、大丈夫でしょう。
「リュディ、大丈夫!?」
「養母上、大丈夫でしたか!?」
「あら、ふたりとも、おかえりなさい。」
騎士団から帰宅して、すぐ、執事や侍女長から今日の出来事を語られたのでしょう。
アメリーズ子爵令嬢が、わたくしに言った言葉すべて、記録がされていますから。
ゴーリュンとマーリックは、走って、こちらの執務室にやって来ました。
特に、ゴーリュンは、複雑そうな表情ですね。
「ふたりとも、大丈夫よ、彼女は、見張り付きで指定の旅館に行ってもらいましたから。」
「見張り付き?そんなに、危険なことが!?」
「えっ!?そうなの、養母上?」
「全然、まったく、危なくはないけれど………
アメリーズ子爵令嬢がご実家に帰宅するまでの見張りを頼んだのよ。」
「えっ? 見張りって、騎士団の人が?」
「いや、騎士団に、そのような連絡は、無かったはずだから違う部隊だよ、警備部隊かな?」
「いいえ、違うわ。
第一王女専属の諜報員よ。」
「諜報員…?」
「えっ!?」
「彼らは、あまり、表に出たがらないのよ。」
「まさか、それって、真影部隊?」
「諜報員って、本当に、いるんだ…!」
「ええ、いるのよ。」
その真影部隊は、別名、影とも呼ばれている。
王家直属の諜報部隊だ。
その中でも、5本指に入るクラスの若手夫婦が第一王女専属諜報員、ライズ&トルカ夫妻。
30代で新婚夫妻。元々、ふたりは孤児院出身だったらしい。ライズに関しては謎が多いが、とある伯爵閣下の異母弟だと言われている。
彼らは、警戒心が強いため、なかなか、二人の前に現れない。警戒心が和らいできましたら、ゴーリュンとマーリックに紹介しましょう。




