お客様が来られました
「リュディヴィーヌ様」
「ええ、何かしら、ロレイン?」
隠居生活中の先代領主である養父に仕えていたという執事、ロレイン。
執事が慌てた様子で執務室にやって来ました。
ロレインが慌てているだなんて珍しいことですから、何かあったのでしょうね。
「先程、お客様が来られました。」
「我が家に、お客様? 珍しいわね?」
「はい、アメリーズ子爵令嬢のキャリー様です。
シャイリーン辺境伯領から来られたそうで。」
「わざわざ、シャイリーン辺境伯領から?」
フォセット王国のジェルヴェール辺境伯領と、反対側の、シャイリーン辺境伯領から…?
子爵令嬢のキャリー嬢が、わざわざ、前触れも連絡も無く、我が家に…
シャイリーン辺境伯家とも関わりがないので、全く、理由が分かりません。
旅の途中で、貴族の屋敷に寄る場合は、手紙を出してから来るというのが、普通です。
「ただですね…」
「何か、ありましたの?」
「それはそれは、不思議なことに…
アメリーズ子爵令嬢は、自分は、辺境伯閣下となられた騎士、ゴーリュン様の幼馴染なのだと名乗っておられまして…」
「辺境伯閣下は、わたくしのはずだけれど?
彼女は、何か勘違いをされているみたいね?」
「何やら、勘違いされているやもしれません。
関わる際は気をつけてくださいませ。」
「ええ、気をつけるわ。」
「ねえ、そこのあなた!
ゴーリュン様は、まだなの!?」
「今は、騎士団に行っておられます。」
「あらあら、騎士団から
呼べば良いんじゃなくて!?」
「ゴーリュン様は、お仕事中なので
呼ぶことはできません。」
「まあ! 私が来たって言えば
ゴーリュン様なら来ると思うわ!?」
ジェルヴェール辺境伯家の侍女長にあたりますベラ・エレシが対応していました。
侍女長のベラは、男爵家の次女として生まれ、20歳から、辺境伯家に勤めているベテランの侍女さんですから、冷静に対応していました。
ですが、子爵令嬢相手に強気にはなれなくて、ちょっと、困っている様子。
アメリーズ子爵令嬢は、厄介そうな方ね〜。
「貴女が………
アメリーズ子爵令嬢かしら…?」
「ええ、そうよ!
貴女は、誰なの!?」
容姿からして金髪碧眼のリュディヴィーヌは、見た瞬間から、王族の者だと分かる。しかし、彼女は、全く、それが分からないらしい。
リュディヴィーヌが王族じゃなかったとしても辺境伯家の関係者であるわたくしや侍女長に、子爵令嬢が、その態度…
側にいる執事も、侍女長も、顔を真っ青にしたくらい、礼儀を知らないらしい。
「初めまして。わたくしは、ゴーリュンの妻
リュディヴィーヌと申します。」
「えっ!?貴女が、ゴーリュン様の妻!?」
「ええ、そうです。」
「嘘よ!あのお方は、結婚はしたくないと!
常に、言っていらしたもの!!」
「確かに、今までは、結婚をする予定は無かったみたいですが、1年以上前に結婚しています。
最近、正式に、公表しましたよ。」
「1年以上前から!?
どうせ、政略結婚なのでしょう!?」
「確かに、政略結婚なのですが…」
「や、やっぱり、やっぱり、そうよね!」
政略結婚だと聞いて喜びを隠せなさそうです。
ゴーリュンは、厄介そうなご令嬢から好かれているようですね。結婚をしていると聞いても、めげないようですから。
「アメリーズ子爵令嬢は、ゴーリュンと、どちらで出会ったのでしょうか?」
「あら、聞いていないの?私は、幼馴染なのよ!
ゴーリュン様のお父様と私のお父様は親友で、小さな頃から、交流があるのよ!」
「なるほど、子爵同士が、親友なのですね。」
「貴女は、どちらの
ご令嬢なのです!?」
「フォセット王家ですよ。」
「えっ!?お、王家!?
ほ、本当に?嘘でしょう!?」
「わたくし、嘘は言っていませんよ?」
ゴーリュンが辺境伯閣下だと勘違いしているであろう彼女は、ゴーリュンの妻なら、辺境伯の親族の令嬢だと思っているのでしょう。
普通なら、辺境伯閣下の妻は、辺境伯領内から選ばれることが多いからです。国防の地なので信用できる令嬢を伴侶として選ぶからです。
しかし、こちらは、逆です。
わたくしが辺境伯閣下なのです。辺境伯閣下の遠い親戚であるゴーリュンを選びましたから、完全に、逆なのですよ。
「わたくしは、第一王女として生まれて、
このジェルヴェール辺境伯家の先代当主夫妻の養女になりました。」
「だ、第一王女………!?」
「今は、辺境伯家の当主を務めております。
ゴーリュンは、お婿様ですよ。」
「ええっ!? 貴女が、領主様!?」
「ゴーリュンは、辺境伯領の次期騎士団長です。
そのような方を、私情で、騎士団のお仕事から呼び出すだなんて出来ませんよ?」
「ゴーリュン様が、次期騎士団長…!?」
「貴女は、シャイリーン辺境伯領から来られたと聞いています。この度のことは、シャイリーン辺境伯にお伝え致しますが、宜しいですね?」
「えっ!? だ、だめ! だめですわ!」
「なぜ、だめなのでしょうか?」




