かっこいい奥さんだなあと思って
「俺らは、そろそろ戻るよ!」
「ああ、ふたりとも、ありがとう。」
「こちらに来て頂いて、有難うございます。
また、いらして下さいね。」
「ふたりとも! 鍛えてくれて、ありがとう!
これからも、頑張ります!また来てね!」
カイラン殿、オルトライティ殿は、これから、ゲイルディス王国のケレディー辺境伯領にある田舎の小さな村に戻るそう。
徒歩、馬車、船旅で、1ヵ月以上もかけて。
今は、そちらの村の家に、オルトライティ殿の奥さんと息子くんが暮らしているようです。
「うむふむ、良い子達じゃの。ありがとうのぅ。
また、来年辺りに来るよ。」
「こちらこそ、ありがとう!また来るよ!
今度は、奥さんと息子を連れて!」
「ええ、ぜひぜひ!
また来年、宜しくお願いしますね。」
二人は、近くの港街から船に乗って行くそう。
船旅の生活は大変だと聞いていますから無事に着きますように、と祈りましょう。
「そういえば、マーリック
また、王都から手紙が届いているわ」
「えっ? 王都から?
今度は、誰からですか?」
「イレボーニ伯爵令嬢、テレッアサ嬢ね。」
「えっ!?また、テレッアサ嬢!?
なんで、僕に手紙が来るんだろう…?
あまり喋ったことが無いのに…」
「うーん…… それは、マーリック自身に、興味があるからじゃなくて?」
「えっ? 僕に、興味が………?」
もしくは、純粋に、マーリックを、お友達だと思っているとしか思えないのだけれど。
まだ、10歳ですからね、まだ自由だと思っていらっしゃるんだわ。
「うーん………どうしよう?
カイセルン様を敵に回したくないのに…」
「ああ、テレッアサ嬢の婚約者候補の?」
「うん、そうだよ。
ランボルー侯爵家の嫡男、カイセルン様。」
「ランボルー次期侯爵ね、彼に会ったことはないけれど、噂だけは、聞いたことがあるわ。」
その噂は、良くないものが多いけれど…
彼は、冒険者ギルド本部長のご子息だ。
自らも、12歳にして、Cランク冒険者という若手の中でも、強い少年であるらしい。
でも、彼は、その天才児として、驕り昂って、冒険者達への命令口調が強いらしく、冒険者の者達からは、嫌われていると…。
「ランボルー侯爵は、優しい人ですけれど…
ご子息は問題児だそうですね?困ったこと。」
「冒険者ギルド本部長の息子だから、いずれは、カイセルン様が跡を継ぐかもしれない。」
「ああ、冒険者を兼任する貴方にとっても、敵にまわると厄介な少年なのね。」
「うん、そうなんだ…」
ランボルー侯爵家は、ご息女が次期公爵少年に嫁入りする予定らしい。そのために、跡継ぎが問題児なカイセルンだけらしいのだ。
副本部長の次期伯爵な青年が、本部長になって欲しいという意見が通る可能性もあるが。
「そういう時に私情は挟まないで欲しいけれど、難しい人もいますからね。」
「気難しい方だから、微妙かもしれない。」
「何かあった時、その時は、リュディヴィーヌの義息子だと、わたくしの名を出しなさい。」
「えっ? 良いのですか?」
「マーリック、そういう人はね、かなり身分差を気にするものなのよ?」
「ああ、確かに、身分や立場を気にする人です。
侯爵子息同士でも、僕は、次男坊だからって、いろいろと言って来ましたし……」
「王女で、辺境伯閣下の領主の名前を出したら、さすがに、敵には回らないでしょう?」
「ほ、本当ですか、養母上!?
ありがとうございます!」
「テレッアサ嬢は、どんな子なの?」
「うーん……
あまり喋ったことがないけれど……
カイセルン様と喧嘩している所なら見たよ?
気が強くて、女王様気質というか…」
「そうなのね………
そのままいくと、婚約破棄になる可能性があるから、王都から離れている我が家、辺境伯家に嫁入りしたいだけかもしれなくてよ?」
「あー、それでなのかなぁ。」
マーリックは、なんだか、微妙な顔だ。
テレッアサ嬢と気が合いそうな気質の子なら、受け入れても構わないけれど…
うん、テレッアサ嬢は、難しいそうね。
「だとしても、それは、ちょっとなぁ」
「そうね、マーリックと相性は悪そうね。」
「うん、マーリックが次期辺境伯になりなさい!
って言われそうな気がするよ?」
「まあ!そのようなことを言うの?」
マーリックは、国王陛下の公認で、辺境伯領立騎士団長を目指すために、次期伯爵として養子入りした子です。
次期辺境伯位は、ゴーリュンとわたくしの子がなることが決まっています。
そのようなことを言う、つまり、国王陛下公認なのに文句を言うようなご令嬢とは、こちらも遠慮したいお相手ですね。
「政略結婚でも遠慮したい気質のご令嬢だよ。」
「そちらも、わたくしの名を出した方が賢明ね。
何かあれば、呼びなさい。」
「本当に、ありがとうございます、養母上!」
「リュディ………」
「どうしたの、ゴーリュン?」
「リュディは、かっこいい
奥さんだなあと思って」
「そ、そうかしら?
ありがとう、ゴーリュン」




