大変な騒ぎになるでしょうね
「マーリック、おかえりなさい」
「はい、ただいま帰宅しました、養母上!」
マーリックは、5日間の、冒険者達との討伐の訓練生活を終えて、帰って来ました。
その姿は、たった5日間の経験だけと思えないくらい、真剣な表情となっていました。少年の顔付きからして、厳しい修業だったかと思うのですけれど、楽しそうでもあります。
ゴーリュンいわく、あのお二人、カイラン殿とオルトライティ殿は、厳しい討伐の訓練をする気質の持ち主らしいので、余計にでしょう。
見習い騎士相手の割に厳しそうですから心配でありましたが、この表情なら、大丈夫そうね?
普段、ゴーリュンと鍛錬をしたり、騎士として働いたりしているから慣れているのかしら?
「養父上は、騎士団ですか?」
「ええ、そうよ。ゴーリュンは、来年の春から、騎士団長に就任が決まったみたいよ?」
「えっ!?そうなのですか?早いですね?」
「歴代の辺境伯領立騎士団長の中で最年少よ。」
「わあ!おめでとうございます…!」
「ふふふ、素晴らしいわね!」
「マーリックは、この5日間は、
冒険者達と過ごして、いかがでしたか?」
「何もかもが新鮮で! 有意義な時間で!
本当に、楽しかったです…!」
「ふふふ、楽しそうで、なによりですね。」
「まず、最初は、冒険者登録しました!」
「あら?あなたは、騎士見習いでしょう?
冒険者ギルドにも登録できるの?」
「はい、出来るそうです!
養父上みたいに、登録をしない騎士の方が多いみたいですが、冒険者の依頼を受けてみたくて登録してみました。」
「まあ!そうなのね!」
マーリックは、正式に騎士団に所属するまで、割と自由だから、大丈夫でしょう。
冒険者として鍛えながら、騎士見習いとしても働いていく形になりそうですね?
ただ、冒険者のパーティーを組む時は、信用に値するかどうか調べる必要性があります。
どうなるのかしら…?
「ただ、今のところ、本名で登録しにくいので、リックと名乗っています。」
「あら、そうね、確かに、マーリック・フォン・ゲゼルテ・ジェルヴェールと名乗ってしまった場合は、大変な騒ぎになるでしょうね。」
「まあ、カイランおじいさまの紹介の時点から、かなり騒ぎになりましたけれど…。」
「ふふふ、そうよね。」
ゲゼルテ侯爵子息で、ジェルヴェール辺境伯の関係者だと、周りが萎縮してしまいます。
王都のゲゼルテ侯爵から調べられてしまいますから、自由が少なくなってしまう恐れが。
それでも、Sランク冒険者からの紹介、孫弟子という形は、驚いたことでしょう。
「冒険者の依頼は、
どのような感じなのかしら?」
「Fランク冒険者から始まるのですが…
まだ10歳なので依頼はF級しか選べなくて、初日の依頼は近くの森林の薬草やキノコの採取から始まりましたよ。」
「ふふふ、貴重な体験が出来たのね!」
薬草、キノコ等の採取は、種類が豊富なので、慣れるまでは、大変なのだそうです。
薬草と毒草、食料キノコか毒キノコかどうかの違いを見分けるのは難しいのです。
王宮だと、毒味役の執事や侍女、護衛騎士の方から、教わりましたけれど。冒険者見習いは、ベテラン冒険者や、冒険者ギルドの職員さんや受付嬢から学ぶものなんだとか。
「5日目で、Eランクに昇格しました!」
「まあ!そうなの!?おめでとう!」
「ありがとうございます!」
10歳と、若くして、Eランク昇格に!?
あら、あなた、かなり強いのね!?
Eランクに昇格にするには、近所にある冒険者ギルドからの筆記試験と、Bランク冒険者との対決の様子を見て、総合的に、判断されます。
「次回からは、パーティーのメンバー探しをしてみようかな、って思っています。」
「ぜひ、パーティーメンバーが決まったら教えてくださいね? これは、必須ですよ?」
侯爵子息で、新しい辺境伯夫妻の養子だと知る人は、身内以外、まだいませんが…
何処かで情報漏洩した場合、一番危ないのは、まだ幼いマーリックです。強い少年だとしても誘拐の危険性はありますからね。
「はい、もちろんです!養父上と養母上に心配をお掛けする訳にはいきませんから!」
「ふふふ、マーリック、偉いですね。
応援していますよ。頑張って下さいな。」
「はい! ありがとうございます!」
「養母上………」
「何かしら、マーリック?」
「13歳か14歳頃になったら、1年間くらい、カイランおじいさまと一緒に旅に出て良い?」
「旅に…そうね、良いんじゃないかしら?」
騎士としても冒険者としても、世界が、視野が広がるのということでしょうから。
ゴーリュンのお師匠様なら大丈夫でしょう。
ゴーリュンが10代で旅に出ていたらしいから相談してみると良いわ。」
「はい! 相談してみます!」




