ゆっくりと過ごしたいんだ
「ゴーリュン
おはようございます」
「ああ、リュディ、おはよう」
今朝の鍛錬は、ゴーリュンひとりだ。
いつもなら、マーリックも一緒に鍛錬しているのだが、今日は、冒険者たちの、カイラン殿とオルトライティ殿の元へ行っているのだろう。
少し暖かくなって来たからか、ゴーリュンは、半袖の、涼しい格好になっている。
「マーリックは、
カイラン殿達の所かしら?」
「うん、そうだよ。
朝早く出発したみたいだ。
今日から、5日間、カイラン師匠達が泊まっている旅館に一緒に泊まるんだって。」
「ふふ、そうなのね。楽しそうだわ。彼にとって世界が広がる良い学びとなるでしょう。」
「うん、そうだね、きっと楽しいよ。」
マーリックは、冒険者の登録は出来ませんが、騎士見習い認定はされています。
なので、貴族の護衛依頼や見習いの教師依頼を受けた冒険者と一緒なら、森林で、野生の獣を討伐することができるらしいのです。
まだ10歳なので、イノシシや鳥系などの倒しやすい獣限定ですが。
若手の騎士見習い、マーリックは、鍛えがいがあることでしょう。
「リュディ」
「何かしら、ゴーリュン?」
「今日は、久しぶりに、リュディと2人だから、ゆっくりと過ごしたいんだ、良いかな?」
「ゴーリュン………」
そういえば、養子のマーリックが来てからは、なかなか、夫婦ふたりの時間は少なかった。
私達は、1年間、関わりが薄かったとはいえ、今も、新婚夫婦のはずなのだけれど。
「ええ、本当に、ふたりなのは、久しぶりね!
もちろん、大歓迎よ?」
「ふふ、ありがとう、リュディ」
「ゴーリュン、お茶にいたしましょう?」
「うん、さっそく、今から温室に行こうか。」
今日は、ちょうど、事務作業もお休みだから、ゴーリュンと、のんびりと過ごしましょう。
辺境伯家のお屋敷には、こじんまりとお洒落な温室があるのです。花壇に、季節ごとに様々な植物が植えてあります。
今の時期は、可愛いらしい薄紫色のお花が多いようで、神秘的な空間が広がっています。
「………………」
「………………………」
「…………………………………」
「…………………………………………」
ふたりは、今や、とても仲良しな夫婦なので、この二人の周りには、執事も侍女もいない。
ミニ厨房に、様々な種類の甘いケーキ、紅茶や珈琲、普段飲むお茶などの飲み物が用意されているため、本当に、ふたりきり。
勿論、念のため、温室の近場に、執事と侍女が控えてはいるから、呼んだら来るのだけど。
昔と同じように、ただただ無言で、ふたりで、ゆっくり、のんびりと過ごしている。
「………………」
「………………………」
「……………………………………」
「………………………………………………」
新婚夫婦のはずなのだが、まるで、熟年夫婦のように、のんびりするのが好きなのだ。
リュディヴィーヌは、無言のまま、紅茶を飲みながら、読書をしている。
ゴーリュンは、そのリュディヴィーヌの横顔を優しい表情で見つめている。
彼女は、読書に集中している間は、無防備だ。
夫であるゴーリュンとしては、妻が、無防備な姿を見せて、のんびりとしてくれているということが、本当に、嬉しくて、愛しい。
ゴーリュンは、たった、ここ数ヶ月で、妻への愛が、リュディヴィーヌへの愛が溢れて止まらないことが、本当に、嬉しくてたまらない。
リュディヴィーヌは、ゴーリュンと一緒なら、身体も、心も、本当に、リラックスするから、読書の時間として、最適なのだ。
政略結婚で、ここまで、お互いに、愛し合っている新婚夫婦は、なかなか、いないだろう。
「ふふふ」
「どうしたのかな、リュディ?」
無言の中で、突然の、小さな笑い声。
リュディヴィーヌが読んでいるのは歴史書だ。
冒険者であるゴーリュンのお師匠様と兄弟子に出会って、この王国の冒険者に関する歴史書を読み始めているらしい。
その書籍は、真面目な内容になっているはずだから、笑う要素は、あまり無いが…
もしかして、思い出し笑いなのだろうか?
「ふふふ、こうやって、ふたりで、ゆっくりと、のんびりと過ごすのが嬉しくて。」
「うん、そうだね、俺も、こうやって、ゆっくり過ごせて嬉しい。リュディ、ありがとう。」
「ふふふ、どういたしまして、ゴーリュン」




