もっと世界を知りたいです
「オルトライティ殿は、どんな方なの?」
「あー、ここだけの話だけれど、オルトさんは、銀燐帝国の王家の生まれなんだ。」
「えっ!? あの滅亡した王家の?」
「うん、そうだよ。」
オルトライティ殿が、まさか、あの銀燐帝国の王家の末裔で、生き残りだなんて…!
29代目の皇帝陛下は、30代という若さで、亡くなられたようです。
原因は不明ですけれど、傲慢なお方だったそうですから、まあ、いろいろとあるのでしょう。
この国の王家は、銀燐帝国の王家のようにならないよう、倫理観は、きちんと学びますから、知っているのです。
第一王女殿下なのに目立たない存在だと、よく言われますけれど、それで良いのですよ。
何か、お役に立てるのでしたら。
「銀燐帝国…?」
「わたくしは、王家の一員として、勉強しましたけれど、そういえば、授業では習いませんね。」
「あー、そういえば、マーリックは、銀燐帝国を知らない世代なんだね。」
「はい、噂でも、聞いたことがありませんね。」
「30年前に滅亡したんだ、今は名前を変えて、蒼玉王国になっているよ。」
「あ、そちらは、聞いたことがあります!」
今は、当時の侯爵閣下だった蒼玉家の当主が、初代の国王陛下になられています。
新しい風を吹かせたいと、王太子殿下の妃は、優秀な才女の伯爵令嬢が選ばれたそうです。
幸いにして、王太子殿下も、王太子妃殿下も、真面目で平和主義なお方のようで、ほのぼのと平和になりつつある様子です。
「銀燐帝国の、最後の皇帝は愚帝と呼ばれる程の方だったんだよ。蒼玉家を含む国民が反発したために悪化して、滅亡してしまったんだ。」
「あの、養父上、そのぐていってなんですか?」
「あー、愚かな皇帝陛下って意味だよ。」
「そ、そうなんですね…?
それは、国民が反発しますね…?」
「皇太子殿下として誕生したのが、オルトさん。
まだ、当時、幼い2歳児だったから許されたんだけれど、貴族として育てられるより、自由に冒険者として生きた方が良いだろうと判断したカイラン師匠に拾われたらしいよ?」
「それでなんですね………」
「な、なるほど………」
つまり、29代目の皇帝陛下の唯一の御子は、今や、Aランク冒険者として、活躍中。
2歳児から、名前を変え、身分を隠し、冒険者として、生活するのは大変なことだったろう。
まるで、物語のようで、不思議な感じがする。
「本名は、銀玉 来樹。
ギンギョクが苗字で、ライジュが名前。」
「つまり、こちらだと、ライジュ・ギンギョク?
あちらは、かなり珍しい名前なのね。」
「でも、その名前だとさ、銀燐帝国や蒼玉王国の関係者だって、すぐに分かるから、今の名前に改名したらしいよ。あ、ちなみに、マテラは、オルトさんの奥さんの苗字なんだって。」
「あら、そうなのね?」
「うん、ゲンセイン王国出身のAランク冒険者、商家出身の、サーシャナ・マテラさん。」
ゲンセイン王国とは、それはそれは、小さな、小さな、一年中、暖かい春のような島国だ。
商業も農業も林業も漁業も工業も、経済すべて繁栄しているために、世界で一番裕福な国家として知られているらしい。
島国だからこそ、独自に発展したものがある。
「商家ということは、かなりの大富豪のはず。
なぜ、大富豪のお嬢様が、冒険者に?」
「商家の跡取り娘として誕生したけれど、父親が亡くなられて、急きょ、跡取りになった父親の異母弟にあたる叔父さんと従妹に追放されて、婚約者から婚約破棄されて、自由に生きたくて冒険者になったらしいよ。」
「そうなのね………この世の中は、色々な境遇の方が、頑張っていらっしゃるのね。」
「うんうん、凄いよね。」
大富豪のお嬢様で、跡取り娘として育てられていたのに、お父様が亡くなられたとたん、急に叔父様に追放されて、婚約破棄されて、様々な出来事が、一気に………?
それは、想像すら、出来ない苦しみだろう。
簡単に想像出来たら、サーシャナさんにかなり失礼なことですからね。
ショックな出来事なのに、今は、乗り越えて、Aランク冒険者として、活躍中…!
それは、それは、素晴らしい女性ですね!
「オルトさんとサーシャナさんには、10歳の、マーリックと同い年の息子さんがいるんだ。」
「えっ? そうなのですか?」
「オルディーは冒険者になるつもりらしいから、いずれ、マーリックに紹介したいよ。」
「はい、ぜひ、会いたいです!」
「世界は広いわね、マーリック?」
「そうですね、もっと世界を知りたいです。」
「ふふふ、世界は、本当に本当に広いんだよ。」
旅に出たことがあるゴーリュンの話は、とても面白くて、興味深い話が多い。
なので、リュディヴィーヌも、マーリックも、ゴーリュンに、たくさん質問してしまう。
箱入り娘なお姫様と箱入り息子な侯爵子息で、この王国からは出たことがないから。




