98.ブートキャンプ
翌日の昼過ぎ、クランハウスの訓練場には大量の人達が集まった。
「すっごい人なんですけど、これなんですか?」
アジ釣りを終えて帰ってきて、昼食を取った後に訓練場をのぞくとえらいこっちゃになっていたのだ。
「マスターが合格を出した方々です。訓練が必要だと思い、午前中に自分の仕事をしてからここに来るように話しておきました」
スピナさんやりますね。でも、この時間に仕事を終わらせてくるなんて、彼らは一体何時から仕事をしたのだろう? 怖いから聞かないようにしておこう、絶対ろくなことになっていない。
「スピナさん、もしかしたらメンバー以外も紛れているかもしれません。その方には魔力循環は指導しないでくださいね。気が付かずに聞かれてしまったら仕方がないですが、気を付けてください」
「わかりました。もし気が付かずに教えてしまった場合はすぐ報告します」
俺は笑顔で頷いた。なにかあったら報告! うんうん、うれしい。
俺は訓練場に集まった人たちの前に立ち、みなさんに挨拶をした。
「皆さんお疲れ様です。今日から皆さんには訓練をしていただきます。訓練後、適性を見てパーティーを割り振りたいと思いますので頑張ってくださいね。先生は、こちらにいるスピナさんです。また、このクランには決まりがあります。これは絶対です! 守れない方は今からでもクランを抜けてください」
そう言って俺は、クランメンバーには必ず『さん』付けで呼ぶことと、今から訓練する方法は秘術なので他人に訓練内容を漏らすことを禁止すると宣言した。
「決まりを守れない方は私がお仕置きします!」
スピナさんがそう言い、ダンッ! と一回足を踏みしめた。もちろん起こる地震……新規メンバーたちが青ざめているけど大丈夫? みんないなくなっちゃったりしない?
結果的には誰もやめなかった。
というのも、訓練が始まってからのスピナさんは聖女のように優しかったのだ。実際聖女なのだが……それにしても、センスと言うものはみんなバラバラだ、スピナさんはこの大量の人数を一人一人見て、その都度アドバイスを送っている。
ポッパーさんなんて「気合いだ! 強くなる気持ちがあれば魔力は循環する!」とか脳筋なことも言っているし、カイリさんは「食堂にきてうまい飯を食え! 魔力が循環しやすくなる飯を作ってやる!」とか飯筋なことを言い出した。ブレードさん達は、スピナさんにまだ教えてもらっている。あなたたちは既に教える側でしょ?
もうわかったと思うが、クランの初期メンバーは全員ヤバいやつらだったようだ。専門分野には強いが教育とは無縁の人種らしい。まともそうなクランクさんは、本日大量のポーションを冒険者ギルドに配達に行っている、ベティさんもまともなことをしていなさそうだ。
クランクさん汁……印のポーションは欠損は治せないが、骨折や切り傷に聞くという結果をペレさんから聞いている。切断された直後で切断面が綺麗ならくっついたこともあるとも聞いたので、かなりやばいポーションに仕上がっている。
1週間が経った、この頃になるとオーラを発動する人たちが増えてきた。
見ていて思ったのは、発動するまでの期間は年齢や体力に関係なさそうだということだ。一番最初にオーラが発動したのは、俺が前に家を修繕しに行ったことがあるおばあさんだった。彼女はカヤさんと言って緑色のオーラ持ちだった。カヤさんは流木ブームの時にみんなが捨てている木っ端の流木を集めて修繕依頼してきた優秀な人だ。流木なら素材として使えるんだから大きさなんて関係ないという発想はなかなかできないだろう。そこに気が付ける人間が優秀じゃないわけがない。
2週間も経つとほぼほぼ全員がオーラを会得した。ちなみに未だにオーラを会得できてない者の中にクランメンバー以外の人物が数人紛れ込んでいた。もしかしたらと思ってスピナさんに伝えた「クランメンバー以外には魔力循環を指導しないでくださいね」が仕事したのかもしれない。俺の引き継ぎに「わかりました」とスピナさんが引き継いだ。まだ確証はないが、引き継ぎスキルのなにか条件を満たしているのかもしれない。
わかってはいたが、オーラの色は均等ではなかった。
赤>青>茶>緑のような感じの割合だ。白もいないし、黄色もいなかった。ナギちゃんは一体どんな特性を持っているのだろう? あと、ベティさんは紫だっけ? あそこも今のところは不明だ。
先日冒険者ギルドにて気になっていたことを確認してきた、現在のクランメンバーは総員800人越え! ちょっと調子に乗ってメンバーを増やしすぎたようだ。というか、街の人達はほぼ全員入れちゃったからね。そりゃあ増えるよ。もう街にクランがあるんじゃなくて、クランが街になったようなものだ。
ちょっと資金繰りを考えなければいけなさそうだ……




