97.集団面接会
シャッドさんが旅立って3か月が経った。季節はもう夏だ!
シャッドさんが来るまでに少しでも準備をしようと、農作業に狩りにとメンバー一丸となって取り組んだ。
畑なんて6回くらい収穫したんじゃないかな? 二毛作どころか、ろく毛作だ。同じ作物を育てているのに一向に衰えがない、この世界の窒素・リン酸・カリウムはどうなってるんだ? それとも、茶色のオーラが万能栄養素なのか?
そうだ! 大きな発見があったのだ! なんと異世界のコメは木になるらしい! コメがなる木なんて、なんて気になる木なのだ! 見たことない木だったけど、グレープフルーツくらいの大きさの実の中には見覚えがあるコメがぎっしりと詰まっていた。
見覚えがあるコメの名は伊達じゃない、玄米じゃなくて白米状態で実の中に詰まっていたのはビックリだった。もしかして、コメの名付け親は身内だったりしないよな? 大丈夫だよな?
コメが木の実の種だという現実を知ってしまい、研ぎ汁の美容効果が本当にあるのか不安になったが、女性陣の圧が強すぎて効能を訂正できずにいる。
俺がクラフトで時短しないと研ぎ汁は出るようなので、女性陣は使用している……そして、評判は上々だ!
真実を知っている俺にとっては、これが有効成分によるものなのかプラセボ効果なのかわからない。とりあえず俺は、毎日女性陣の顔色を窺っている。ちがう! 皮膚が赤くなったり悪い影響が出てないか見守っているのだ。
そうそう、ちょっとした事件が起こった。あ、別に研ぎ汁の秘密がバレたのではない。
臨時職員のジャックくんがお友達や知り合いを連れてきたのだ。どうやらクランメンバー希望なようだったので、俺は集団面接会を行った。会場は宿の食堂だ、そしてこれがちょっとしたお祭りごとになってしまったのだ。
そうそう、事件じゃなくて、祭りね! まつり……
面接は一対一の対面でやりたいと思い、メンバー希望者以外は宿の入り口で待機してもらっていたのだが、「グランディールがメンバーを募集しているぞ!」と街中に広がってしまい長蛇の列になってしまったのだ。
「なんかすごい行列ができてますけど何やってるんですか?」と、スピナさんが食堂にやってくるまで呑気に会話していたのだが、それどころじゃなくなってしまったのだ。外を覗けば呑気にやっていたら夜まで終わらないほどの長蛇の列……夕マズメに間に合わないどころか、今日中に終わるかもわからない!
そこで俺は必殺技を繰り出した。
「クランでどんな活動をしたいですか?」「がんばれそうですか?」
この2つの質問に絞った。そして、速攻で判断する。
ちなみに一対一の対面は速攻で辞めた! 今は一対三だ! そして三の方が俺達だ! 俺の他に町長のゴンさんと俺の膝の上にはトラが居る。ゴンさんには街の人がどれくらい前から住んでいるのか確認した。なにか良からぬことを企む人は間違いなく新参者だろう……
そして一番の功労者がトラだ、なんとトラは面接中に『ダメ!』と教えてくれるのだ。
基準がわからないが、俺には考えてもわからないので、ダメなものはダメなのだ。そういった人には「メンバーにはなれないが農作業や開拓をお願いしたいですけどいいですか?」と言っておいた。ほとんどの人が怒って出て行ったが、クランメンバーになっても畑作業がメインのお仕事なんだけど、どうなってるんだろう?
面接で無事トラの合格を勝ち取った人たちには冒険者ギルドに向かってもらうことにした。その頃にはポッパーさんやカイリさんも騒動に気が付きやってきてくれたので、二人にはある程度人数が揃ったらギルドへの誘導をお願いした。
スピナさんには先に冒険者ギルドに向かってもらい、これから起こることを先に伝えてもらうようにお願いしておいた。第一陣が到着するころには準備は終わってるよね……心の準備だけでもしておいて欲しい。
合格者2陣目を送った辺りで急に扉が開き、すごい勢いで食堂に入ってくる人が居た。せっかくもめないようにルールを作っているのに守れないなんてマナーがなってないな。
「クランマスター! これはどういうことだ!」
「……ベティさん、不合格です」
入ってきたのはベティさんだった。ギルドの方でもクラン入団決定者でお祭り状態になってきているようだ。ベティさんはすごく慌てている。
ベティさんを不合格にしたはずなのだが、なぜか彼女は面接官に仲間入りした。ついに一対四の面接会になってしまった。
ベティさんはものすごい視線でメンバー希望者をにらんでいる。そういうの圧迫面接だからやめてくれないかな? 冒険者ギルドってやばい面接方法で採用しているのか? エリーさんやルイーダさんが心配だ。
昔の俺なら収入がなくて、受付嬢がいくら仲間になりたそうにこちらを見ていてもスルーしていたが、悩んでいるようだったら受け入れてあげよう……
ベティさんはトラからダメ出しを受けた人が出ると、その人を連れて奥の部屋へ行き、すぐ戻ってきていた。この人は一体何をやっているのだろう?
なんだかんだで夕マズメ前には集団面接会は終わった。何人クランメンバーに加入したのかは正直わからない。後日、適性を見ながらいろんなパーティーの振り分けをしよう。今のところ主に農作業だけど……
「ようやく終わりましたね! 夕マズメなのでキス釣りに行ってきます」
そういって俺は固まった腰と足をほぐしながら、サーフへと向かった。
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「ポッパー、カイリ、ちょっと手伝ってくれ」
「ギルドマスターさんよ、これは一体どうしたんだ?」
「あぁ、こいつらは手配が欠けられている盗賊だ。まさかこんなところに居るとは思わなかった。ギルドへ運ぶぞ!」
「俺は食堂の仕込みがあるからパスで!」
「何言ってるんだ、お宅のマスターがやったことだぞ! クランでも責任を取れ! というか、アイツはどうやってこいつらを見分けたんだ? なんのそぶりも見せないのに的確に不合格にしてたんだぞ?」
「そこはマスターだからな。マスターが見えている世界は俺達のずっと先なんだろうさ。カイリさん、ちゃっちゃと運んでしまおうぜ!」
「しょーがねーなー、ナミ! 悪いけど竈に火をおこしといてくれ」
夕暮れのベイツの街を、ぞろぞろと数十人の男たちが足を引きずり、肩を押さえながら重い足取りで冒険者ギルドに歩いて行った。




