96.はじまりの朝
ベイツの街にある、中央広場で俺は目を覚ました。
昨晩はどんちゃん騒ぎをして、そのままここで寝てしまったらしい。お腹にトラが丸まっているし、だんだん暖かい季節になってきたので寒くは感じなかった。
昨日あれだけ大騒ぎしたのに中央広場は綺麗に片付いていた。俺が寝た後に後片付けをしてくれたのだろうか? 俺が作ったと思われるテーブルやイス、皿などの食器が洗われてまとめられていたのでマジックバックに収納した。間違って他人の物を収納しちゃってたら謝って返そう。
バーベキューで使った炭だが、ちょっとクラフトしてみた。ほんと、ちょっとした出来心だったんだ……透明な石が出来上がった。しかも、イメージがカットしたやつだったので、すんごい煌めいている、これはアカンやつかもしれない。
「おはようございます」
俺は宿にある食堂に顔を出した。さすがにクランハウスに戻るには遠すぎる、ここで朝食を頂こう。
「おー、起きたか! 今朝飯を準備するから開いている席に座っててくれ!」
厨房からカイリさんが顔を出し、朝食の準備に行った。何もしてないのに朝食が出てくるなんてすごい贅沢な気分だ。この世界に来てから自分で料理なんてあまりしてないから、ずっと贅沢しているわけだが……
朝食は、ご飯・野菜炒め・わかめの味噌汁だった。シャッドさんには、昆布を収穫するついでにワカメも採ってもらっている。ワカメもミネラルが豊富で身体にいいのだ。もちろん美容にもいい! ワカメも味噌汁からサラダまで幅広く使えるので食堂でよく使われる食材となった。
今日からシャッドさんは旅に出るので、ワカメのや昆布の収穫はカイリさんを始め、ナミさん、エメさんが引き継いでくれた。
カイリさんには忘れずに「エビも獲ってね」ってお願いしたのは内緒だ。
「おはようございます。昨日は楽しませていただきましたぞ。まさかシーサーペントが出てくるとは! いやぁ、役得でしたな!」
顔を上げると、近衛騎士のペレさんがニコニコしながら立っていた。
「楽しんでもらえたならよかったです。から揚げやカツはおいしかったですか?」
そう、今回の肉料理にはから揚げやカツが用意された。今までは魚のフライなどは食堂のメニューに載せていたが、油の値段問題があり、あまり種類が増やせなかった。しかし、シャッドさんのオーラが植物の育成促進効果がわかったので大豆の量産のめどが立った。肝心のシャッドさんが留守にするのは痛手だが、グスカートさんが頑張ってくれるだろう。
「これからもベイツに来るのが楽しみになりましたぞ。この仕事は私が働けなくなるまで続けましょう! 誰にも譲りたくない」
「お願いしますね。いろいろと秘密が多いので……あ、王都までシャッドさんよろしくお願いしますね」
今日からシャッドさんはペレさんと王都へ向かうのだ、ちゃんとお願いしておかないとな。
「任されましたぞ!」
シャッドさんには、道中にペレさんと食べれるようにから揚げとかフライをマジックバックに入れて行ってもらおう。いや、シャッドさんは料理人だった、自分で作れるから心配ないのか。調味料は渡して置こう。
俺は今、ベイツの南門にいる。
「シャッドさん、それではお願いしますね。人材は無理に探さなくても大丈夫ですよ、よい人が居たら誘ってくださいね」
「わかりました! できるだけたくさん連れてきますね!」
なんだか話がかみ合わない、大丈夫? たくさん連れてこられても俺が困るよ? 俺は顔は認識できるけど名前が覚えられないんだからね? あ、イケメンも認識できないんだった、頼むから……頼むよ?
「ペレさんもどうかよろしくお願いします。あ、これ手紙です。王様へ渡してください」
そういって俺は一通の手紙をペレさんに手渡した。
この手紙には、これからいろいろやっちゃうからね! 手回しお願いね! と共に、今朝できてしまった透明な石を入れて封蝋した。価値はわからないが、王様に送りつけてしまえば有効に使ってくれるだろう。
もちろん封蝋印はマジックバックに刻んだ印と同じスタンプを使用した。我ながら良い出来だ。
「それでは行ってきます。畑も気になりますし、できるだけ早く帰ってきますね!」
そういってシャッドさんとペレさんは王都へ向かった。
俺は二人が見えなくなるまで手を振った。




