95.宴の夜
その日のベイツの街は過去最高に盛り上がったと思う。
俺が調子に乗って「全部俺が持つ!」なんて言っちゃったもんだから、街中の人が集まった。
まぁ、それは別にいいんだ、この盛り上がりのエネルギーをクラン活動のエネルギーにしてもらいたいのは本心だし、これからはベイツ住民の協力もかならず必要になってくるだろう。クランの中に街があるんじゃない、街の中にクランがあるのだ。
開始早々に宿から人があふれた。
俺はテーブルとイスをどんどんクラフトで作り道に並べて行った。それを見ていた街の人達は自宅からテーブルとイスを持ち出して家の前に並べる。これはラッキーと思った俺は並んだテーブルに料理をどんどん置いていく。ちょくちょくストックしていた料理だ。食堂で並んでいる、最新の調理法の料理ではないが、そこは勘弁してもらいたい。
そんな感じで街中央の広場で更に料理を展開させた。
しばらくするとポッパーさんが現れて、剣に炎を纏わせだした。どうやら剣で肉や魚を焼いてくれるらしい。俺は肉やら魚をどんどんとマジックバックから出した。それに塩振り、ポッパーさんが剣に材料を指して焼いていく。魔法の炎は触れないと熱が伝わらないからな。
ポッパーさんの大剣で焼かれるメーター級のタケダはとても見ごたえがあった。
ベイツの街ではオーラを纏ったクランメンバーを見るのはすでに珍しいものではない。クランメンバーなら誰もがオーラを出せるという認識になっている。ポッパーさんは既に料理パフォーマンだ。大盛り上がりしていると、大皿を持ったクランメンバーたちが中央広場に集まり中央広場が宴会場化した。
そこからはカイリさんとシャッドくんが下準備をした肉・魚・野菜をポッパーさん・エメさん・トレーラさんが焼きまくった。最近、健康に気を使った料理を食べているエメさんとトレーラさんは一段と綺麗になっている。なにげに二人の料理の列は男性ばかりだ。エメさんは人妻だぞ! それでもいいのか!
その分ポッパーさんの所には女性が行っているしいいのか? よくわからん!
実はランドくんも剣に炎を纏わせることができる。炎と水は剣に魔力を纏わせやすいのかもしれない。
ランドくんには俺のバーベキューセットの炭起こしを手伝ってもらった。炭はクラフトで作っておいたのだ。木に火をつけてからクラフトすると簡単に炭ができる、時短料理みたいだ!
炭で熱くなった鉄板で、カイリさんとシャッドさんが西京焼きやらチャーハンやらを焼きだした。赤いオーラ組のパフォーマンスも好評だったが、鉄板から出てくる醤油や味噌が炒められた匂いに釣られる人たちも出てきた。街の皆はいつの間にかマイ皿を持ってきているようだ。
今日のベイツの街はすごく明るい。クランメンバーがみんな光りながら楽しんでいるからだ。それにいたるところに松明が用意されていた、どうやら商業ギルドと冒険者ギルドの職員が頑張ってくれたらしい。今度お礼をしておかなきゃな。
「スピナさん、楽しんでますか?」
皆のお腹が落ち着いたあたりで、俺はスピナさんの元へ向かった。スピナさんがパーティーに入ってくれたから、ここまでこれたのだと俺はずっと思っている。スピナさんは俺がやりたいことをくみ取ってくれたのか、自分ができるようになったことを皆に教えてくれる。
なんだかんだで、クランメンバーの教育はスピナさんが起点になっているような気がするのだ。これは俺の『引継ぎ』のスキルが発動しているのか、スピナさんが単純に教育上手なのかはわからない。ただ、俺一人だけでは間違いなく皆は成長しなかっただろう。
「えぇ、人生でこれほど楽しいと感じた時はありません。ベイツに初めて来たときはこんなに幸せになれるとは考えてもいませんでした。私はマスターとトラさんに出会えて幸運でした」
「何を言っているんですか、先ほど言ったでしょう? これははじまりの宴です。ここからはじまるのです。これからもっと楽しいことを出来るように頑張らないといけませんよ」
「はい、がんばります」
スピナさんは真面目だ。俺が頑張らないといけないなんて言ってしまったのが悪いが、無理に頑張らなくてもいい。俺が言いたかったのは楽しいことが増えるように頑張って欲しいだけだ……ダメだ、最終的に頑張れになってしまう。余計なことは言わないようにしておこう……
どんちゃん騒ぎは深夜まで続いた。




