87.今年もタケダは好調なようです
「シャッドさん、どうかしましたか?」
俺はシャッドさんとベティさんの所に向かい、シャッドさんに質問した。
「この芋汁のレシピを冒険者ギルドに教えてくれと言われまして……僕はクランの料理として提供したいと考えているので、お断りしたんです」
シャッドさんは俺が余計なことを言ってしまったせいで、この芋汁をクランの料理として普及しようと考えているんだったな。
「ベティさん、シャッドさんはこの芋汁を安価に食べてもらえるようにする目標があるんですよ。俺はシャッドさんのやる気を大事にしたいですし、ギルドはこの芋汁を今までと同じ価格で提供できそうですか?」
「……グランディールではできるというのか?」
「まだわかりませんが、できるようにしたいと考えていますよ」
ベティさんは真剣な顔で考えて……シャッドさんにこう言った。
「……おかわり」
苦笑いしながらおかわりをよそおうシャッドさん。ベティさんは芋汁のお椀をうけとり「ありがとう」と言って自分の場所へ戻っていった。うちのクランで、どこまでできるのか様子見かな?
「ギルドマスターでも欲しがるようなレシピになっているようですね。シャッドさん、頑張りましょうね」
そういって、俺も芋汁をもらってその場を後にした。
「それではお腹もいっぱいになったし、帰還しましょう! みなさん、忘れ物はないですかー?」
大きな荷物は俺のマジックバックに収納してある、周囲を見回しても何も落ちていないことを考えると大丈夫だろう。
「あ、ミドリ草が生えていたらちょっと持っていきましょう」
そうなのだ、クランクさんにもミドリ草が必要だ。ミドリ草は俺のポカリエスの材料だけではない。クランクさんの研究材料でもあるから、あればあるだけいい。
今回は日数が経っていなかったせいかミドリ草の発育がよろしくない。クランクさんと相談し、採取しないで帰ることにした。
「それでは俺は先に行って、タケダが回遊してきてないかチェックして待ってます。皆さん、ご安全に!」
浜辺まで来た俺は、例によって組織の輪を乱した……ちがう、俺にしかできない仕事をこなすために先を急いぎ爆跳した。
ベイツ近くのサーフ、春なのでそろそろタケダが釣れるはずだ。
っていうか、タケダはシーバスのはずだから本来なら一年中釣れるはずだし、汽水域でも生息できるからヒラメっぽい魚がいるポイントでも釣れるはずなのだが、今のところ釣れていない。
大型の魚がたくさんいるこの世界、縄張りとかあるのかもしれないな……
ジギングロッドを取り出し、キャスティングする。
着底したら煽り開始だ! 3回しゃくってフォールしている間にガツンとジグが持っていかれた。やった、タケダが居る!
やはりタケダの引きは強烈だ。なんだかんだで、こいつを釣るのが一番苦労したからな! 去年一通り釣り方を確立した俺は難なくタケダをGETした。もちろん血抜きもえらいこっちゃすることなくこなす。やっぱりなれると手際も良くなるものだ。
その日のタケダは爆釣だった。おかえりなさい、タケダ。晩御飯はタケダの刺身でも食べようかな。醤油もできたし最高だろう。あぁ……わさびがあれば最強になるのに。
最強と言えば、味噌もできたんだから西京焼きもできるじゃないか! 大豆万歳! クラフト万歳!
夕マズメ辺りで、皆が帰ってきた。
「おかえりなさい、危険はありませんでしたか?」
「大丈夫です、なにも問題ありませんでした」
代表して、スピナさんが答えてくれた。ナミちゃんもランドくんも元気そうだし良かった。
「こっちもタケダがたくさん釣れました、宿の方にも置いていくので晩御飯の食材に使ってください。もう夕方ですし、宿の食事や宿泊客の対応もあるでしょう、クラン会議は明日のお昼にしましょう」
そういって、俺はクランが運営している宿へと向かった。
「エリーさん、お手伝いありがとうございました」
「いえ、お仕事ですので問題ありません。賄いに用意されていた宿の食事、すごくおいしくてびっくりしました。食堂に来れば食べれるんですか?」
「夕食は酒場としても開放しているから大丈夫だぞ」
カイリさんが自慢気に答えている。実際、料理はすごく進化した。その分手間も増えているわけだが、カイリさんの手際の良さと、シャッドさんが下準備を手伝いでフォローできている。
シャッドさんは下準備が終わった後、クランハウスの食事も作っているのでちょっと大変そうだが、楽しそうに料理を作っている。
お客さんが増えたので、ナミさんとナギちゃんのお手伝いも、ものすごく助かっている。シェフだけでは酒場と言うか、食堂は回らない。もちろん宿もだ。
「それでは俺達もクランハウスに戻りますか。明日は宿の方が落ち着いたらクランハウスに来てくださいね」
シャッドくんとカイリさんで夕食を作り、マジックバックに俺達の夕飯を収納した。さすがに帰ってから夕飯を作ったのでは効率が悪い。
そして、クランハウスに戻ろうとしたのだが……
「馬車がない……」
俺は愕然とした、馬車がないと俺はかけっこでビリだ! これは間違いなく夕飯に間に合わなくなるぞ。
そう思いながら立ち空くしていると、ポッパーさんが俺の前で背中を向けて屈んだ。
「……乗れ」
俺は今、ポッパーさんの背中に乗って空を切っている。はやい、早すぎる。そして目の前が赤い、夕飯時で人がいないのをいいことにみんな光っている。
それにしてもポッパーさんは相変わらず身体を動かすのが好きだな、いいことだ。
よし、いけ! はいよー! ポッパー!




