86.たんぱく質はプロテイン
「ところでたんぱく質ってなんだ?」
焼いた肉を食べながら、カイリさんが聞いてきた。
「んー、説明が難しいのですが、筋肉の元になる栄養ですね」
「食べ物の栄養ですか? 興味があります」
クランクさんも興味を示してきた。忘れてしまいがちだが、クランクさんは薬師だからな。この世界でお医者さんみたいな感じだろう。
「食べ物にはそれぞれいろんな栄養があるんですよ。肉・魚・大豆にはたんぱく質が豊富です。運動をしてたんぱく質を摂ると筋肉が大きくなります。お米や芋には炭水化物が多いですね。炭水化物は体内で糖に変わります。糖はそのままエネルギーにできるので、身体をたくさん動かす人には必要な栄養素ですね。ただ、エネルギーを使わない人が糖を摂りすぎると脂肪になり、太ります。野菜・果物にはビタミンが豊富です。ビタミンにも様々な効果があるのですが、一般的に体調を整えたり、お肌が綺麗になったりとかですかね?」
「「「その話、詳しく!」」」
ナミさん、エメさん、トレーラさんが喰いついてきた。
「ビタミンですか?」
ブンブンと首を振っている3人は真剣だ。みんなきれいなんだから今の食生活で良いと思うんだけど、ダメなのかな?
「見た感じ、皆さん栄養素が欠けているようには見えませんよ。それに美容の為に野菜だけ食べるとか、筋肉の為に肉だけ食べるというのはおススメできません。バランスよく食べるのが一番です。あ、そういえばお米のとぎ汁で顔を洗うと、お肌がすべすべになると聞いたことがありますね。ただ、クラフトで精米すると、とぎ水がでない……」
「人力で精米しましょう!」
エメさんはガシッと俺の肩を掴み、目をガン見して訴えてきた。
「それではクランに着いたら挑戦してみましょう。ただ、精米は結構重労働だった気がします」
「大丈夫です、うちにはポッパーさんがいます。旦那は私の為なら苦にしないでしょう」
いや、既に毎朝お風呂の水汲みをして、大変そうだなと思っているんだけど……もし精米まで手を出しだしたらお手当てを増やさないと。
実はポッパーさんにはお風呂当番などのお手当てを出している。そうでもしないと、家族三人養っていけないからだ、エメさんも宿のお手伝いとか流木拾いをしてもらっているのでお給料があるが……ランドくんにも少しお給料を渡しているが……あれ? 余裕で生活できるくらい稼いでいるのか? 食費も家賃もクラン持ちだしな。
クランの収入は増えているから別に問題ないか。いや、ポッパーさんの身体が壊さないように、お仕事の分担が必要かもしれないな。
「俺も食べ物で身体が出来上がるなら、宿のメニューに取り入れていきたいな」
カイリさんも栄養の話を聞いて、自分の料理について考えたようだ。
「そうですか……そういえば! すごくおいしくて毎日食べたくなるような、中毒性が高い食べ物もありますけど、それを毎日食べていると間違いなく身体を壊す食べ物もありましたね」
「そんな食べ物があるのか? 教えてくれ!」
余計なことを言ってしまったかもしれない……『だし』なんかも、ご飯にかけて食べれば中毒性が高そうだけどなぁ。あれは毎日食べても身体に悪くなさそうだけど、毎回だと塩分摂り過ぎちゃうかなー?
「まだ材料が揃っていないので、揃ったら作ってみますよ」
「楽しみだ!」
そういってカイリさんはまた肉を食べ始めた。
「芋汁の栄養はどう思いますか?」
シャッドさんは芋汁の栄養ついて気になったらしい。芋汁、おいしいからね……特にうちの芋汁はおいしくなりすぎた感がある。
「芋汁には、大豆から作られた味噌、お肉、野菜が数種類入ってます。バランスは悪くないと思いますよ。ただ、毎日食べれば飽きると思います。お金がなくてもたまには何か別の物も食べたいですよねぇ」
「そうですよね、選択肢は増やしたいです。考えてみます」
そういってシャッドさんは鍋の方に戻っていった。ちなみにシャッドさんは現在芋汁を作っている。野菜を切り終え、こんぶ汁が温まるまでの間に話を聞いていたのだろう。
鍋の横には肉を食べながら肉をスライスするカイリさん。シャッドさんもスライスしているけど、スピードが違うなぁ。やはりカイリさんは料理スキル持ちなのか?
そして鍋のまわりをウロウロしているベティさん、芋汁が気になるのか? でも、片手には串肉を持っている、肉を食べながら冷やかしているのだろう。
芋汁ができたようだ。
クラン内では新生芋汁は人気商品だ。みんな並んで芋汁を受け取っている。最後尾にはベティさんが首をかしげながら並んでいるけど、どうした! 自分のギルドで提供している芋汁が人気なんだぞ、不思議がらないで喜びなさい!
ベティさんはガツガツと食べ、シャッドさんの方へ駆け足で向かってお椀を突き出している、あれはおかわりだろう。ギルドマスターにも芋汁は受けいれてもらえたようだ……
いや、最初から受け入れられているからギルドで食えるのか……
しかし、シャッドさんはベティさんのおかわりを受け入れていない。
なんか、なんやかんかしているので俺はシャッドさんが居る鍋の方へ向かった。




