85.時間を潰すならバーベキューがいい
「よっこいしょ、それでは肉でも焼きましょうか……」
俺は何事もなかったかのように立ち上がり、バーベキューの準備に取り掛かった。
「ここで待つのか?」
ベティさんが恐る恐る俺に聞いてきた。
他のメンバーは扉を触ったり叩いたりしている。ここはスピナさんとトラしか入れないのだろう……なぜかはわからないが、2回も同じ現象が続いたのだから、2度あることは3度もあるってことだろう。
もしかしたら他にも入れる人は出てくるかもしれないが、扉の先に居るのはミノタウロス。試すときはスピナさんかトラと一緒に入ってもらわないとヤバそうだ。
「前回は1階層目にスピナさんが現れましたが、今回はどうなるかまだ分かりません。1階層目は魔物が居ないようですし、ここで待機ですね。また1階層目に現われるようなら次回から戻って待つことにします」
そんなこんなでバーベキューの準備だ、時間を潰すならバーベキュー一択だろう。俺にはレイスの宝石を見てニヤニヤする趣味はない。
が、バーベキューの準備をする前に地震が発生した、今回のスピナさんは最初っから全力らしい。今のところ地震の震源地はスピナさん以外確認できていない、間違いないだろう。
「なんか……早く終わりそうな気がするのでバーベキューはやめときますか」
「……そうだな」
ベティさんの同意は得た、他の皆は素振りをしている。身体強化無しで素振りも継続しているが、各々身体強化しながらの素振りもやっているようだ。やっぱり娯楽が少ないから、自分を高めるのに時間を使うのだろうか?
クランクさんなんて斧を振っているからちょっと怖い、そのうちミノタウロスみたくなってしまわないよな?
ドガァァアァン! という音と共にまた静かになった。
俺は扉に手をあて開くか確認してみた、もちろん開かなかったが……
「スピナさんは出てこないみたいですし戻りましょっか」
そう言って俺達は1階層目へと引き返した。
2階層目でブレードさん達と合流し、1階層目へと向かった。
今回の1階層目には光の柱が立っていない、その変わりに2層目に降りる階段のところにスピナさんとトラが居た。どうやら今回は聖騎士の鼻血は必要無かったようだ。
「スピナさん早かったですね。今回は余裕をもって倒せましたか?」
「はい! やりました! 今回は魔石をドロップしました!」
スピナさんの手にはソフトボールくらいの魔石があった。
「そのサイズの魔石は……いや、その色はなんだ……」
ベティさんは魔石を見て考え込んでいる。
ポッパーさんとカイリさんも興味があるのか、スピナさんに近づき手のひらに乗っている魔石に釘付けだ。他のメンバーもじっと魔石を見ていた。
ミノタウロスがドロップしたという魔石の色は白かった、まさか本当にソフトボールなのか? 今まで見た魔石は赤かったし、ずっと小さかった。ミノタウロスがドロップした魔石は確かにオカシイ。
まさかブルーブルの革でグローブを作って、ソフトボールをやれとかないよな? 俺は球技は苦手だぞ?
俺は球技が苦手なのだ、バスケをすればゴールからものすごく嫌われる。本当になんでこんなに入らないのかって言うくらいゴールに入らないのだ! 垂直飛びは昔から得意だったので、リバウンドはものすごくできるのだが、得点が取れない。
野球だってそうだ、フライがどうしても取れない。高く上がったボールを見ているとなぜかボールを見失うのだ。そして、焦って全力投球すると肩が外れてしまう。バットだって高めの球に手を出すと脱臼するのだ、まさに球技のセンスがない。
俺は異世界では絶対に球技は流行らせない。万が一流行ってもやらないぞ! 今決めた!
「その魔石で記念にスピナさんの武具を作りましょう。クランに着いたら加工できるか確認させて下さい。それでは、みんな揃ったのでバーベキューしましょう!」
そう言って俺はバーベキューの準備を始めた。
俺のバーベキューセットはじいちゃんのお下がりだ。
コンロの様なものもあったが、でかい七輪のようなものもあった。
コンロはカイリさんに魔石が動力と教えてもらったが、じいちゃんのコンロの魔石は使っても使っても減らない。コンロの燃費がいいのか、魔石の主がヤバいやつなのか知らないが、やばいくらい減らない。
七輪の方はカイリさんは知らなかった、もちろん他のメンバーも知らなかった。俺は始めて見た時、U字溝かと思ったが、トラが昔それで肉や魚を焼いていたと言っていたので七輪となずけたのだ。もちろん網もある、錆びない謎金属だが使いやすい。
今回はでかい七輪に薪を使ってバーベキューを行う。どうしてじいちゃんは炭をストックしてくれなかったんだ? 今度炭も作ろう、炭で焼いた肉も魚も最高だからな!
「皆さん! 運動の後は肉・魚・タンパク質です! じゃんじゃん食べてください!」
俺の掛け声とともに、バーベキュー大会が開始された。




