84.ウンチングスタイル
「ちょ、ちょっと待ってぇぇぇ!」
ダンジョン1層目で、ベティさんの悲鳴が鳴り響いた。
いや、悲鳴の前に地震の振動が響いているが、ギルドマスターらしからぬ可愛いベティさんの悲鳴の前ではささいなことだろう。
スピナさんが全力を出そうとすると地震が起こる。最初にダンジョンが揺れた時、ベティさんはダンジョンを警戒してキョロキョロしていた、しかしダン! ダン! と続くとともに、震源地がスピナさんだと気が付き顔面蒼白になった。そして今の可愛い叫び声だ。
腰を抜かしたベティさんの後方部の草原は、前回同様禿げた。なんかお約束になってきているな。
ナギちゃんとランドくんも、ぽかんとしている。やはり全力少女スピナさんの実力は突出しているのだろう。
でも、ブレードさん・グスカートさん、トレーラさんは悔しそうにしているし、ポッパーさんとカイリさんなんてオーラ全開だ。みんな近くのスピナさんと言う、大きな壁に触発されてさらに強くなろうと誓っているのだろう。
この世界は魔物がいる、武器もそこら中に存在する、強くなって悪いことはない。魔力循環を獲得したカイリさんとポッパーさんが、スピナさんを後から上回ったように、また追い抜いて教え合い、考えて、高め合っていけばいいと思う。
まだ魔力をギュッとできた段階、だれもドン! できていないからね。
「ベティさん、スピナさんはすごいでしょ? でもこの力はまだ表に出していけない気がします」
「そうだな、実はルテン王にもスピナのことを頼まれていたのだ。今までベイツで私を見たことがないだろう? 最近王の勅命を受けてベイツに派遣されてきたんだ」
ギルドって中立な立場と思いきや、王様の手が入ってるの?
「ギルドって中立じゃなかったんですね」
「……いや、私だけ特別だ」
スピナさんのまわりを固められる力は、多ければ多い方がいいからいいんだけど……
「マスター、お願いがあります」
「ん? スピナさんどうしたの?」
珍しくスピナさんがお願いをしてきた。スピナさんからのお願いなんて本当に珍しい。
是非聞いてあげなければ!
「可能ならまたボス部屋に挑戦をしたいので……トラさんに助けてもらえないでしょうか?」
『いってやるニャ』
そういってトラが俺のマジックバックから飛び降り、スピナさんの前にちょこんと座って「にゃ!」っと鳴いた。
えぇ! まさかの俺じゃなくてトラへのお願いだったの?
最近夜になるとトラとスピナさんがコソコソやっていたのは知ってたけど、意思疎通までできるようになってた? 俺はまだ借りたことないけど、猫の手まで借りれるなんて、ずるい!
「スピナさんがボスに挑戦するそうなんで、お肉と宝石を集めながら、みんなでボス部屋の扉まで行きましょうか」
「え! ここ難関ダンジョンなんだけど幼子とか大丈夫なのか?」
ベティさんが驚いているようだったけど、問題なくボス部屋の扉までたどり着いた。
いや、正確にはナギちゃん・ナミさん・ブレードさん・グスカートさん・トレーラさんは2階層の川を渡った、多分セーフティーポイントに残った。
ナギちゃんが「お化け怖い」と言ったから3層目には来なかったのだ。
そこにブレードさんが「僕は女性をダンジョンに置いていくことはできない」と言い、いつもの3人が残ってくれた。
そういえば昔、ブレイドさんだった頃にスピナさんだけ護れればいいのか? 的なことを言ったような気がする。彼にはスピナさん以外にも護りたい人間が増えてきたのだろうか? それとも、ボスを倒したらスピナさんが1階層に転送されると考え、すぐに駆け付けたいから残ったのだろうか?
別に急がなくても、光のバリアは『聖騎士の鼻血』がないと解除できないのに……それまではスピナさんはバリアに守られて安全だと思うんだけどな。
「まず、俺でも扉が開くか試してみますね」
そう言って俺は扉を押した、やはり開かない。
横にも開かず、やはり上か! と思いしゃがんで……
「それでは行ってきます」
前回同様眩しい光を発してスピナさんとトラが消えた。
そしてウンチングスタイルで門を見つめている俺を、他の全員が見つめていた。




