83.Aランクの壁
朝だ、俺は毎日かかさず魔力循環の訓練を継続している。
結果は出ていない、なぜか訓練を始めると途端に意識を失うのだ。魔力が多すぎるのも困ったものだな……
「おはようございます。今日は皆さん勢ぞろいですね、どうしました?」
朝からフルメンバーが揃っているなんて珍しい。うちのクランは宿をやっているから全員が揃うことはまずないのだが……
「今日はギルドマスターとダンジョンに行くんだろ? 全員で行くぞ! 大丈夫だ、宿はエリーさんにお願いしてきた」
自信満々でカイリさんが答えた。
いや、それ全然よくないから……ギルド職員を宿で働かせるなんてダメでしょ。
「あとで謝礼もお支払いしますし、ギルドマスターと本人の承諾も得ましたから大丈夫ですよ」
ナミさんが補足してくれた。許可が出ているならいいけどさ……
「みなさん、時間がないのでダシと味噌汁を用意しました。朝ご飯を食べましょう」
シャッドさんは全員分のご飯を用意していたらしい、もしかして全員揃わないと思っていたのは俺だけなのか?
「うむ、変わった料理だな。いただこう」
なにげにベティさんもいるし、さっそく食べている。ギルドマスターがなんでこんなに溶け込んでいるんだよ。
ダシがベティさんに好評だったのか、3杯おかわりしていた。皆もおかわりしているし、ダシは好評だな。それにしてもシャッドさんは朝からよくこんなに用意したものだ、大変だったんじゃないかな?
「シャッドさん、朝ご飯おいしかったです。ごちそうさまでした!」
朝から頑張ってくれたシャッドさんに、俺はおいしかったとごちそうさまの挨拶でお礼をした。
「それでは皆さん、今回も先に行ってイワナかヤマメを狙うのでお先します!」
そういって俺は天高く舞った……ただ思いっきり飛んだだけだけど。
「なんだあれ!」
後ろからベティさんの叫び声が聞こえるが、いつも通りスピナさんがなだめているようだった。
今回もイワナかヤマメは不調だった。なにか時期的なものがあるのだろうか?
でも、ヒラメっぽいペラくてでかい魚はたくさん釣れた。このヒラメっぽい魚は何を食べているんだろう? お腹を開いてもいまいち何を食べているのかわからない。
アジとか居れば嬉しいんだけどな……たしかマイクロジグがタックルボックスにあったはずだ、今度狙ってみるか。
みんなが追いつきフラットフィッシュの時間は終わった。
今回もお昼が近い、それにしてもナギちゃんもランドくんも走り切ったの? みんなすごいな。
鮮度抜群のヒラメっぽい魚を今回もお昼にした、カイリさんとシャッドさんにも手伝ってもらい、焼いたり揚げたりいろいろ作った。こんなに大勢で移動することがあるなら、近いうちにバーベキューセットを作るともっと楽しくなるんじゃない?
「それにしても幼子までオーラを纏えるなんて、ここはどうなっているんだ?」
ベティさんは魔力循環を使っているナギちゃん・ランドくんに感心しているらしい。
「え? みんな数週間でできるようになってると思いますが、できないんですか?」
「できるわけあるか! これはAランクの壁だぞ!」
なんかめっちゃ怒られた。
ベティさんが言うには、魔力循環で出てくる色が付いた魔力はオーラと呼ばれ、Aランクの昇級試験では必須項目になっているらしい。というか、これができないとAランク相当の実力がだせた人間が居ないということだった。身体強化の限界がBランクまでなのかな?
そして、クランメンバー全員がこのオーラを纏えているグランディールは異常らしい。ギルドの昇級試験の基準でいえばナギちゃんもA級になれる可能性が有ると言われた、未成年だからFランクだろうけど……
「魔力循環はスピナさんの指導のおかげですね」
実際魔力循環については、俺がスピナさんに説明して以降、全員がスピナさんのアドバイスでできるようになっている。俺の功績と言うよりは、コツを掴んで誰でも使いこなせるようにしたスピナさんの功績だろう。
スピナさんは教育が上手なのかもしれない。
「……クランではオーラを魔力循環と呼んでいるのか?」
ん、ちょっと失言してしまったか?
「あぁ、ちょっとこれ以上は企業秘密です」
「企業ってなんだよ!」
そんなこんな話しながら昼食は終わった。
「それではダンジョンに向かいましょうか。今回もミドリ草がたくさん生えていたらちょっと採取しましょう。つい先日採ったのでそんなに生えてはいないと思いますが……」
なんて言っていたのに大きな木の周りにはミドリ草がわさわさ生えていた。
生えるスピード速すぎない?




