80.ベイツの街冒険者ギルド筆頭現る
「ん? なにかおかしなこと言いましたか?」
シャッドさんが固まっている。
「じいちゃんとは? 芋汁を広めたのはマスターのおじい様なのですか?」
あれ?
「あぁ、じいちゃんの味と似ていただけで、じいちゃんが広めたわけではないかもしれません……でも、材料がこの大陸に無い物とか使われているでしょ? 多分じいちゃんだと思うんですよね」
「芋汁は、誰でも食べれる価格設定にすることと、材料と味噌の製法しか伝わってないんですよ。誰がレシピを作成したかは謎なんです。芋汁が誰でも食べれるようにと作られていることから、教会発祥とも言われていますが、現在はギルド主体になっています。実は謎が多い食べ物なんです」
そんな感じなのね? 言われてみれば、食材が安いんだから教会が炊き出しとかで作ればいいのに、そういう話は今のところ聞こえてこないしな。それより味噌のレシピがあるのに味噌の味が違うのは、どういうことなんだろうな?
「まぁ、おいしい芋汁を格安で食べれるなら誰が作ったとかはどうでもいいですね」
そう言って、新しく生まれ変わった芋汁を食べながら、俺はシャッドさんと話した。
「お話を聞いて考えが変わりました。この芋汁はグランディールの料理として広めたいと思います!」
そういってシャッドさんは芋汁が入った鍋を持って、クランハウスの方へ走っていった。
シャッドさんや……鍋を持って走って中身がこぼれたりしないのかい? というか、最後の最後で余計なことを言ってしまったような気がするぞ。やってしまったか……
シャッドさんは新たな目標を見つけたのか、クランハウスの方へと帰っていってしまった。
成人したての彼だが、魔力循環はかなりマスターしてきている。ここら辺で危険な目に合うことはないだろう。
俺は海藻とエビをマジックバックに回収し、磯部でイカ釣りを満喫した。イカって1年で死んじゃうって言うけど、異世界のイカも寿命は一年なのかな? それにしても大きくなりすぎだよね。
イカ釣りを終え、クランハウスに戻ってきたがシャッドさんは居なかった。
「スピナさん、シャッドさん帰ってきませんでしたか?」
「シャッドさんなら慌ててカイリさんと宿の食堂へ行きましたよ? なにかあったんですか?」
もしかして、カイリさんも仲間になっちゃった? カイリさんは料理全般に興味持つからなー。旨味成分の話を聞いて興奮している気がしないでもない。
「いや……特に危ないことはありませんでした。ところでギルドの方はどうでした? ドロップアイテムを購入してもらえましたか?」
「それが大事になりまして……」
スピナさんの話によると、ブルーブルの肉までは良かったが、魔石やレイスのドロップアイテム辺りからルイーダさんでも手が余るようになってしまったらしい。
買い取りはしてもらえそうだが、ベイツのギルドに買取できるお金が現在ないらしく支払いは保留状態になっているっぽい。レイスの魔石と宝石はそんなに高額になるのか?
「今もポッパーさんが冒険者ギルドで話し合いをしていると思うので、今から一緒にギルドへ行ってもらえますか?」
釣りから帰ってきてから冒険者ギルドかぁ。嫌だなぁ……遠いし。
でも、シャッドさんも宿の食堂へ行っているみたいだし、行くか。俺は厩舎からシルバーを連れて馬車で冒険者ギルドに向かった。
「エリーさんお久しぶりです。なんだか大変なことになっていると聞いて伺ったんですけど……」
俺の顔を見たエリーさんは、がばっと立ち上がり俺を無言で見ている。
いやいやいや、ダンジョンに行って得たものを正直に報告しているんだからね! 俺は悪いことはしてないぞ?
「ポッパーさんがギルマスと相談中です。2階へ案内しますので付いてきてください」
おー、なんか初めてギルマスと会う気がする。なんだかんだで会ったことがない。
もしかしたら食堂とかですれ違っているかもしれないけど、挨拶したことはない。どんな人なんだろう?
「ギルドマスター、グランディールマスターのアタルさんが居らっしゃいました」
「おう! 入ってくれ!」
扉の奥から女性の声が聞こえた。ベイツの街のギルマスは女性だったらしい……
「失礼します……」
扉を開けると、部屋には俺と同年代くらいの女性が居た。もちろんポッパーさんもいる。
「初めまして、グランディールのマスターをしているアタルです。いつもベイツの冒険者ギルドにはお世話になっています」
「ルイーダには聞いていたが冒険者らしくないってのは本当なんだな。私はベティ、ここのギルドマスターだ」
冒険者らしくないなんて失礼だな、俺はこの街の筆頭冒険者なんだぞ! あ、でもこの人はこの街の冒険者ギルドの筆頭だった……おとなしくしておこう。
「ギルドマスターさんよ、うちのマスターは怒らせるとそこら辺のA級冒険者よりもヤバいぞ」
ポッパーさんが、俺をかばっているのかディスっているのかわからないことをギルドマスターに吹き込んでいる。ちょっと砂浜をへこませたり、海を割ったり、ポーションを作れるだけじゃないか。
「あぁ、そうだな。そこら辺も含めて話し合いをしたい。座ってくれ」
そう言われて、俺とスピナさんはポッパーさんが座っているソファに腰掛けた。
エリーさんはいつの間にかいなくなっていた……




