76.禿げちゃう!
ダン!
ダン!
スピナさんが足を地面に叩きつけるたびに、ダンジョンが揺れる。
「あわわわわ、さっきあった地震の震源地はスピナさんだったの?」
俺は今、猛烈にうろたえている。
こないだまで痩せてガリガリだったスピナさんが、地震を起こしているからだ。
スピナさんに自信を持ってもらおうと、魔力循環だったりを思い付きで説明していたけど、まさか自身より先に地震を会得するなんて思ってもいなかった。
そしてもう一人、顔を真っ青にしている人がいる。ポッパーさんだ。
ポッパーさんは、スピナさんが能力強化を会得しミノタウロスを撃破したと聞き、手合わせを願い出たのだ。しかし、ここにきてこの地震。
しかも、スピナさんの身体強化の光がさらに眩しくなり、だんだんキラキラし始めた。
「行きます!」
ダダダダン!と走りポッパーさんに詰め寄るスピナさん。
「ちょっとまったーーーーーーー!」
ポッパーさんが叫んだ! でもスピナさんは止まらない。いや、止まれないのか?
ズバァァァン!
轟音と共にポッパーさん後方の草原が禿げた。
スピナさんの突きは、ポッパーさんの横にそれた為後に方の草原がやられたようだ。ポッパーさんがはげなくて本当に良かった。当たってたら髪以外も吹っ飛んでいた可能性が有る……
「やばいぞ、あれはやばいぞ」
ポッパーさんがやばいやばい言っている。たしかにあれはやばそうだ。俺も似たようなことを海でやっているが、まさか聖女も同じようなことができるとは思ってもいなかった。
「ポッパーさん、危なかったですね。後ろを見てください、草原が禿げました。大丈夫です……ポッパーさんの髪は……有ります!」
「いや、髪とかの問題じゃないだろう……」
現在俺達は飯を食べている。といっても、米ではない肉だ。
肉を焼きまくり食べながら、スピナさんの能力強化の考察をしている。
スピナさん曰く、魔力循環の回転を逆方向に向けるときに、魔力がギュッとなり、その時に能力強化が発動するらしい。なので、強化を維持するために強化中は魔力循環を、高速で交互回転させ続けているらしい。
スピナさんは「マスターが砂浜で見せてくれたやり方です!」と胸を張って言っていたが、俺は置いた魔力を踏みつけていただけで、やってることは全く違う。
でも、なんとなく言ってる意味は分かる。
理解しやすい例というと、拍手だ。拍手をする時、一番スピードが出ているのは、手がぶつかり音が出る直前と、手を広げてまた叩く動作へ戻る直前だ。ちなみにスピードがゼロになるのが音が鳴った時と、最大まで手を広げた時。グラフ上すると音波の波みたいな状態になる。きっとスピナさんはこの波の上下の頂点をすごく短い時間で繰り返しているのだろう。高温の音波の波みたいに……
理解しやすい例をあげたつもりがややこしいくなってるぞ? 要はスピードが最大からゼロになった瞬間に魔力がギュッとなるのだろう。要約できてないが……
「ちなみに皆さん出来そうですか?」
俺の目の前では光った人たちが足を地面にダンダンしている。まるで地団駄を踏んでいるようだ、あまりにも滑稽で、ゼンゼン心惹かれていかない。
「見た感じ、皆さん出来ないようですね。そもそも、ポッパーさんとカイリさんは魔力をギュッとして剣に魔力を纏わせていますからね。もしかしたら、白い光の特性ですか?」
そういうと、ブレードさんにみんなの視線が刺さった。あぁ、すごくブレードさんが気まずそうだ。ブレードさんも魔力循環すると白く光るんだよな。
「ぼ、僕はまだできない……」
まだっていうことはできる気でいるんだね。
頑張ってスピナさんのような超絶強化を手に入れて欲しいけど……そういえばスピナさんは聖属性魔法ができたって言ってたな。ということは聖女関係になっちゃうのかな?
「ブレードさん、頑張ってくださいね。そういえばスピナさんが聖属性魔法のスキルって言ってたので、スキルにも関係あるのかもしれません。出来なくても落ち込まないでくださいね」
「あれができればスピナさんを護れる! 絶対に習得する!」
ブレードさんがすごく張り切っているが、すでにスピナさんは自分を護れる強化を会得したんだけどそこんところはどうなんだろう? 魔力循環の新たな可能性が出てきたんだし、そっとしておくか。
そしてさっきまで俺がキラキラ光ってたことには誰も言ってこないから、このまま知らんぷりをしよう。だって、俺は聖属性魔法のスキルなんて持っていないのだから……
「それでは食事が終わったらベイツの街に帰りましょう。皆さん、座って食べましょうね!」
みんなの足元の草が、みごとに禿げまくっている。
このままいくとダンジョン1層目の草原がなくなってしまいそうだ。今回はハプニングが起こって焦ったけど、みんな無事でよかった。
無事帰るまでが冒険だ! 気を抜かずに帰ろう!




