75.解除キーは聖騎士の鼻血
光の柱の中でスピナさんが寝ている。
離れていてちょっとわかりにくいが、白い布のようなものを掛けているように見える。
「スピナさん! ヘブッ!」
光の柱に突っ込んだブレードさんは、柱にぶつかり変な声を上げている。俺の天敵イケメンブレードさんも、鼻血を出すとちょっと親近感が持てる。クラフトでダンボでも作ってあげようか?
この柱はバリア的なものなのかな? と思い、柱を触ろうとしたら消えてしまった。
ブレードさんの激突で破壊されたのか……まさか聖騎士の鼻血が解除のキーになっていたのか!
スピナさんはトラが言う通り寝ているようだ。見た感じケガは無いように見えるけど、この白い布は誰が掛けたんだろう? さすがに女性に掛けられた布を引っぺがすわけにもいかないので、俺はスピナさんの横でしゃがみ込み、声を掛けた。
「スピナさん、おはようございます。起きれますか?」
今は朝ではないかもしれないが、寝ている人を起こすのは『おはようございます』でいいだろう。
しばらく待っても反応がないので、肩をポンポンと叩きもう一度声をかける。復活したブレードさんが後ろでやいのやいの言っていて、ちょっとうるさい。スピナさんが早く起きてくれないとブレードさんの暴走が止まらなさそうだ。
俺の声掛けに気が付いたのか、ブレードさんの騒音で起きたのかわからないが、スピナさんのまぶたがゆっくりと開いた。
「おはようございます。急にいなくなってしまってビックリしました。ケガはありませんか?」
見た感じ無事そうだが、布の中まではわからない。さすがに覗く気にはれない。
「……マスター! 私、ついにやりました!」
何をやったのかはわからないが、スピナさんは興奮している。そしてがばりと起き上がったせいで掛かっていた布がめくれた……
「スピナさん、ちょっと防具がえらくやられているので待ってください。まず、防具直しますね」
俺はスピナさんの防具をクラフトして直した。ブルーブルの革が余っていてよかったよ。ついでに白い布もクラフトしてローブにしておいた。この白い布、朝市で購入していた布よりもずっと白い。これなら聖女っぽいローブができるだろう。もちろんスピナさんの許可は貰った。
「それで、なにが起こったんですか?」
防具が直り、白いローブを着て満足そうなスピナさんに問いかけた。
「実はトラさんとボス部屋に飛ばされたようで。ミノタウロスと戦いました」
「ミノタウロスだと!」
ブレードさんの興奮はまだ終わってなかったようだ。さっきまで、真っ白いローブを着たスピナさんを見て顔を真っ赤にしていたのに忙しい人だ。
「ミノタウロスと戦い。勝ちました! その時にトラさんの協力のおかげで魔力をギュッとできたんです!聖属性魔法の一部が使えました!」
「……そうですか。トラ、ありがとな」
俺はトラに向かってお礼を言った。ようやく猫の手を貸してくれたようだ。
『死なないようにしておいただけニャ』
トラはあぁいっているけど、きっとスピナさんの為にいろいろ手を貸してくれたのだろう。トラが居てくれて本当に良かった。これでスピナさんの身に何かあったら、俺は立ち直れているだろうか? 俺の心は半分壊れた状態でこの世界に産まれているから、治っていたとしても病んでいた可能性がある。俺は不老なだけであって、不死身ではないのだから……ほんとうに助かった。
「それで、聖属性魔法と言うのはどんなことができるようになったのですか?」
「はい! 能力強化です!」
能力強化かー、ゲームでいうバフみたいな感じなのかな? 身体強化と重複するのかな?
「身体強化とは違った効果なのですか?」
「わかりません。ただ、身体強化しながら、さらに能力が上がりました」
多分だけど、本当に多分だけど……さっきまで俺が受けていたトラのキラキラ魔法みたいな感じなのだろう。だって、さっきまで俺は身体強化したメンバーと同じ速さで動けていたのだから。
ということは、トラは聖属性スキル持ちなのか? いや、よくよく考えると回復魔法も使えると言っていた。聖属性魔法が使える猫なのだろう。
「そうなのですね。ところでミノタウロスにブレードさんが反応していましたが。有名な魔物なんですか?」
俺はブレードさんに問いかけた。
「初代聖女様が命を賭して倒したと言われている魔獣が、ミノタウロスだ」
「そんなやばい魔物がダンジョンのボスをしていたんですかね? スピナさん単騎で倒せて本当に良かったです」
ほっとしていると、スピナさんが話し出した。
「多分ですが……あのミノタウロスは弱い個体だったのだと思います。教えられていたミノタウロスはもっと凶悪でしたので……」
こういう伝説のお話は、尾ひれがついているのが普通だ。だから弱い個体だったというのはあまりあてにならないような気がするけど……ダンジョンのボスはちょっと弱かったりするのかな?
「そうですか、でもミノタウロスを倒せたんですからスピナさんも聖女に肩を並べましたね。もう聖女と語っても誰も文句は言わないでしょ。せっかくですから、スピナさんの能力強化見せてもらえますか?」
そうお願いすると、スピナさんは頷き能力強化を始めた。




