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63.大豆の用途が多すぎる

「このスープは芋汁に似ているのに、魚の味がしますね」


 おかわりがなくて絶望に打ちひしがれたシャッドくんだったが、味噌汁を飲んで立ち直ったようだ。


「わかりますか? これは味噌汁と言って味噌を使ったスープです。出汁にタケダのアラを使用しました。タケダの風味と野菜が丁度良いでしょ? 味噌汁は具材を変えればいろんな味になるので、毎日食べても飽きません」


 タケダの出汁とかアラとか、地球の民が聞いたら飲むのをためらうようなワードになってしまったが、シャッドくんは味噌汁を真剣に見つめ味わっている。


「タケダはわかるのですが……アラとはどの部位ですか? あと、ダシってさっきご飯に乗せたウーリが入ったやつとは違うんですか?」


 シャッドくんは料理にとても興味があるようだ。カイリさんは未だに立ち直れてないけど……


「えっと、アラの定義が難しいのですが、私達が食べない部位ですね。味噌汁には頭や骨を使用しました。頭や骨って煮込むと良いダシが取れるんです。動物の骨でも同じように煮込めばダシが取れます。ウーリを刻んだ『だし』はあれが料理名なのでややこしいですが、味噌汁のだしは、アラなどを煮込んで出たおいしい成分のことをいいます」


「もしかしたらダシが入れば芋汁もおいしくなりますか?」


 シャッドくんは芋汁大好き人間だからね。俺と一緒だ、仲間!


「俺もそれは考えていますよ、ダシは野菜からもとれるのでいろいろ研究は必要そうですね。ちなみに牛肉を芋汁に入れたいのですが、牛ってどこで買えますか?」


 じいちゃんの芋汁は米沢牛入りだからね! 高級食材で代用しないとダメかもしんない。


「牛というとブル系統の魔物か?」


 ポッパーさんが魔物の話に喰いついてきた。


「できれば牝牛がいいんですけど、魔物にも雄雌あるんですか?」


「……わからない」


 デスヨネー。魔物の性別なんてみんな気にしないよね。


「飼料で大豆を作っていると聞いたので、家畜はいると思うんですけど、牛っぽいものが居れば買いたいですね」


「知り合いにあたってみますね」


 クランクさんが知り合いに聞いてくれるらしい。知り合いって王様じゃないよな?

 クランクさんの知り合いが今のところ王様しかいなくて不安しかない。


「お願いします。あとは芋汁の芋ですね。資格を持っているシャッドくん、冒険者ギルドから仕入れられるか確認お願いできますか?」


 芋汁に芋がなければ、ただの汁になってしまうからね!


「わかりました! 最高の芋汁を作りましょう!」


 シャッドくんはめちゃくちゃ乗り気だった。


「アタルさんよ、ダシの取り方教えてもらえるか? 食堂で使いたい」


 カイリさんが復活した様だ。カイリさんはパーティーメンバーになったので『さん』付けに変わった。

 ちゃんと守ってくれるので、俺は嬉しい。


「わかりました、料理の幅が増えるのでシャッドくんと是非マスターしてください」




 すぐに用意できるアラはタケダしかなかったので、俺・カイリさん・シャッドくんの3人で、タケダのアラで出汁の採り方の勉強会をした。出汁の取り方は手間がかかるが、料理の味を大きく変えるので丁寧に教えた。

 今回は一回沸騰した後に、新しい水で出汁を取って生臭みを取ったが、焼いたりしてもおいしいと伝えた。二人は骨を焼くのか! とビックリしていたようだったが、是非やってみて欲しい。俺はめんどくさいからやらないけど。


 アラで出汁を取ったスープは、冷めると表面が固まる。これは魚から出た脂が固まったものだが、魚臭さが苦手な人用に、この油を取った後、温め直したスープなんかも有りだ。もちろん、固まった油『にごこり』というが、これもおいしいのでぜひ料理のレパートリーを増やしてほしい。


 せっかくのタケダのだし汁ができたので、俺はタケダの雑炊を作ってあげた。ちなみに今回は醤油ベースにしてみた。

 カイリさんとシャッドくんは歓声をあげ、フーフーしながら食べ始めた。歓声に気が付いた他のメンバーも集まり、もう1回お食事会になってしまったのは仕方あるまい。


 この日から、エスポワール経営の食堂では、雑炊・味噌汁がメニューに追加された。


 具材は日替わり、ダシも野菜も変わるので常連さんは毎回雑炊と味噌汁を頼むようになってしまった。

 ちょっと大豆の消費量がやばくなりそうだ、クランで用意した土地で大豆はつくらないといけないかもしれない。


 いや、それよりも豆と言ったらジャックくんだ、ジャックくん遊びに来てくれないかなー。

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