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62.だしだし……

 俺は今、クランの宿にいる。

 時間はお昼過ぎ頃、カイリさん達は訓練に行っているため、もうしばらく帰ってこないだろう。

 俺は夜ご飯の準備をすることにした。

 今回は俺がご飯を作る、そう! サプライズだ! 俺がクラフトでしか料理を作れないと思っているみんなをぎゃふんと言わせるのだ。道具ならじいちゃんが作っているから大丈夫だ!


 マジックバックに、なぜか飯盒があったのだ。

 じいちゃんが作ったのは間違いないのだが、なぜ飯盒だったのか? そういえば、じいちゃんと川に釣りに行ったとき、流れてきた缶詰を拾って帰っていたことがあったな。流れてきた缶詰をどうするのか聞いたら、家で食うって言ってた。

 戦争中はこんなの普通だったって言ってたが、その話を聞いたのは昭和も後半、もしかしたら平成に入っていたかもしれない。それでも、流れていた缶詰を食うつもりでいるなんて、じいちゃんはワイルドだったんだなと思う。

 ただ、この缶詰には後日談がある。じいちゃんの家に遊びに行ったときに、カニの缶詰が乗ったサラダが出たのだ。カニなんて当時の俺には高級食材。いただきますなんて待てないで、つまみ食いをした……が、食えなかった。

 物理的に食えなかったのだ! 口に入れた途端、身体が拒絶反応を起こし吐いた。どうやら川で流れてきた缶詰が食卓に出てきてたらしい。悪くなった缶詰は絶対に口に入れてはいけないと身体に刻んだ瞬間だった。


 懐かしいなぁ、と思いながら大豆と塩をクラフトした。

 遂に味噌ができた、そして副産物で醤油もできた。

 味噌と醤油はセットだよなぁ、と考えていたのが良かったのかもしれない。

 今日はサプライズ間違い無しだな! 俺がクラフトがないと何もできないと勘違いしているメンバーがビックリするだろう。


 まずは米を研ぐ、米は洗わないといけない。ちなみに精米はクラフトしたせいか、とぎ水はあまり出なかった。クラフトした精米は無洗米になるのかもしれない。

 今回は飯盒を二つ用意した、そこに米を入れて手の甲くらいまで水を入れて給水させる。


 次はウリー・ンダナス・苦い根っこを細かく切る。材料だけ見るとひどい料理に見えてくるが、あっちの世界だとキュウリ・ナス・ミョウガだ。野菜の名前が変わるだけでこんなに印象が変わるなんてひどいものだ。

 ミョウガは水に浸したものをもちろん使った。水に浸しておかないとえぐみが強すぎる。

 細かく刻んでこの料理は八割完成だ。


 俺の手際がすこぶるよかったおかげで、みんなが来るまでえらい時間が余ってしまった。

 せっかくだし、もう一品増やすか……俺はタケダのガラに塩をすりこみ水の入った鍋に入れ火を入れた。

 こんなこともあろうかとガラを取っておいたのだ、あの時は味噌がなかったので暇があったら(うしお)汁でも作ろうと思っていたのだが、あいにく忙しかった。忘れていたわけじゃない。

 沸騰したところで煮汁を捨て、もう一回水を入れ煮る。

 その間に、キャロ・マルネギをザクザクと切って随時鍋に放り込んだ。

 あとは煮込んだらタケダのガラを取り出して……取り出すのめんどくさいな! クラフト!

 タケダが取り除かれたスープの火を、みんなが来るまで弱くして待った。


 しばらく待つと、みんなが帰ってきた。


「今日は俺がご飯作るから準備できたら食堂で待っててくださいねー」


 よし、最後の仕上げをしよう。まずは飯盒に火をかける。

 米は、はじめちょろちょろとかよく言うが、別にずっと同じ火力でもいいらしい。

 最後の蒸らしさえしっかりしていれば問題ないと聞いたことがある、でもやったことはない。


 飯盒からちょっと焦げのにおいがしたあたりで火から離し、飯盒を逆さまにしておいた。

 そこからは、タケダで出汁を取ったスープに味噌を入れ味噌汁に。

 ウリー・ンダナス・苦い根っこのみじん切りに醤油をぶっかけた。

 あとは蒸らし終わった米を皿に盛りつけて完成だ。




「はいはい、今日は特製ご飯ですよ。特製スープ・ご飯・だし。みんな召し上がれ」


「……」


 無言だった、なんでだ? 『特製スープご飯だし』という謎単語に困惑してるのか?


「このスープが特製スープで、この白いのがご飯ね、米を炊いたの。そしてこれがだし」


「ダシってなんだ?」


 カイリさんがだしに興味を持ったようだ。


「だしはだしだし……」


 説明が難しい、山形では夏野菜をきざんで醤油をぶっかけた総称が『だし』なのだ。

 俺はキュウリとナスとミョウガのだしが一番好きだ。ミョウガが入ってなくてもうまいが、ミョウガ入りの方が上だと思っている。


「スープは芋が入ってない芋汁に見えますね」


 シャッドくんもさすが料理人、興味がありますか?


「芋汁とは全くの別物だよ。まぁ食べてみてよ。だしはご飯にどばーっとかけてね! 俺の故郷の味にそれなりに近づいたよ」


 今回は味噌と醤油を使った料理だ、味噌は存在してるが醤油は今のところ見たことがない。きっとみんな初体験だろう。


 料理人二人組がまずは特製スープに手を付けた……おいしかったらしい。フーフーしながら飲んでいる。熱いんだったらご飯から食べたらいいのに。

 その後、だしがかかったご飯を食べて一瞬手が止まり、その後ものすごい勢いでかきこんでいった。だしってめちゃくちゃおいしいし食べやすいよね。お茶漬けみたいな感じで食べれちゃうからね。


「「おかわり」」


 料理人二人のおかわりが食堂に響いた。

 でも残念、ご飯は飯盒二つ分しか炊いてないのだよ。

 おかわりはない!

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