61.金貨一枚の人現る
俺は今、ハスンの村へ向かっている。
朝一、ポッパーさんに厩舎まで送ってもらい、シルバーの自動運転機能によってハスンまで送り届けられている最中だ。
とはいっても、助手席にはクランクさんが居る。クランクさんのナビがなければ、ハスンの村までも怪しいので半自動運転機能なのかもしれない。トラはいつも通りシルバーの背中で丸くなっている。
本日も、ポッパーさん・カイリさん・シャッドくんはお昼過ぎまで訓練するそうだ。スピナさんもギルドに顔を出してから合流し、訓練に励むと言っていた。もし自分たちでやれそうな依頼があれば受けると言っていたが、ほとんどが家の修理だろうから訓練になるだろう。
女性陣とランドくんは朝から流木拾いに行くと聞いている。訓練場をスキルで建てたのを見て、流木の有用性に気が付いたようだ。ただ、先に有用性に気付いている街の人達がたくさんいるので、どのくらい拾えるのかは不明だ。北門からサーフに出て、東門まで散策し、カイリさんたちと合流後、訓練して、いい時間になったらみんなで食堂の準備に戻るそうだ。
薬師のクランクさんは、薬師としての仕事はポーション作成後、王都へ出荷する作業を今までしていたそうで、店を構えていたわけではないのでこのままパーティーメンバーとして活動していくと報告を受けた。たしかに、大きな木のミドリ草は俺がポカリエスにしてしまったら商売あがったりだろう。
クランクさんは、将来的にポカリエスを作れるようになりたいと言っていた。是非頑張って欲しい、俺の仕事が減るから大歓迎だ!
そんな会話をしながらハスンの村に到着した。
今回は秋野菜を買い込むのだ。というか、夏野菜もまだマジックバックに大量にある、なんとか消費しなければいけない。
「ごめんくださーい、夏に野菜を売ってもらったものでーす」
ジャックくんのお家に突撃してみた、この村ではジャックくんの家以外に知り合いがいないからな。突撃するならジャックくん宅一択だろう。
「おー、この前のあんちゃんじゃないか」
家にはおじいさんが居た。俺が前回野菜を買ったことを覚えていてくれたらしい。ありがたい!
「今回は秋野菜を売って欲しくてきました。売ってもらえますか?」
「今回もたくさん買ってくれるのか? 町まで売りに行かなくてよくなるから助かる。どんどん買ってくれ」
今回もどんどん買っていいようだ、それは助かる。なんてったって、うちのクランはいつの間にか食堂経営することになってしまったからな。なんならベイツの街を食の街にしてしまおう!
いや、ダメだ! 観光客は呼べない。もうベイツに宿がなくなってしまったから……
ジャックくんの家の倉庫に行くと、ジャックくんが荷運びをしていた。
「お、おんちゃんじゃないか。また野菜を買いに来てくれたのか?」
「そうそう、どんな野菜がある?」
正直言って、名前を聞いても野菜の種類はわからない。でも、聞くしか選択肢がないから困る。カイリさんの料理を食べているときに食材の名前を確認しておけばよかったな。
「秋は、キャロ・まるネギ・ダイズ辺りが家では育ててるよ。あと、おんちゃんはダイズを食べるなら米も食べるのか? 飼料だけど家ではコメも食うぞ」
「え? 米あるの? じゃあ、米は売れるだけ売って。あと野菜も全部買おうかな、ひとまず金貨一枚分で!」
「前回も金貨って言ってたな……申し訳ないが、今回も銀貨十枚で支払いしてもらえるか?」
ジャックくんのおじいさんが銀貨での支払いをお願いしてきた。金貨だと使い勝手が良くないらしい。俺的にはどっちでも問題ないが、俺も金貨よりも銀貨の方が使い勝手が良い。主にモノ作りだが……
米を中心に野菜を売ってもらい、荷台に詰め込んでいく。今回も大量だ!
キャロとまるネギは、ニンジンとタマネギだった。思ったよりも近くで芋汁の食材が揃うもんだな。
あとは肝心の芋だが……ギルドに相談するしかないか。
荷積みを終え、帰ろうかと思った所でふとあるものが目に入った。
「あそこの庭にはえてるのも欲しいんだけど、買える?」
「あの苦い根っこのやつか? おんちゃんはあんなのも食べるのか?」
あぁ、この世界ではミョウガは食べないのか。そういや、ミョウガにも寄生虫だったか居るって聞いたことがあるからな。苦いって知ってるってことは、誰かが食べてお腹を壊してから食べ物じゃないって認識なのかな?
「おう、俺は好きだぞ、あの苦みが癖になるんだ。俺はあれも買い取るから、増えてきたら採っておいてくれ」
ミョウガって放っておくとすごく増えるらしいんだよね。
結婚前に同棲していた時に、アパート隣のお母さんから増えてしょうがないから勝手に掘っていってって言われたことがある。
「好きなだけ掘っていっていいぞ。気に入ったら次回から買ってくれ」
ジャックくんのおじいさんから許可を得たので、クランクさんとミョウガを掘った。
途中からジャックくんもミョウガ堀を手伝ってくれた、ジャックくんとてもいい子!
「そうそう、ベイツの村にクランを作ったんだ。もし、街に売りにくるなら『グランディール』に寄ってってよ。ギルドに聞けば宿を教えてくれるはずだから」
そう言ってジャックくんたちと別れた。
まさか米が手に入るとは思わなかったなぁ、夏野菜もいっぱいあるし久々にあれを食べよう。




