59.お金を素材に使うのは、やめたいけどやめられない
「秋と言ったらあいつだよなぁ」
俺は今、ちょこっと頭が出ている岩礁の上にいる。
そして目の前には秋の味覚が居た。
「アイツを釣るならエギなんだけど、あいにくこの世界に持ち込めていないからな。クラフト頼りかぁ」
目の前にはイカが泳いでいた。種類はわからない、というか俺はアオリイカとコウイカくらいしか区別がつかない。それにしてもこの世界のイカはでかいな、ぱっと見キロクラスだ。
イカは慣れないとなかなか見つけづらいが、目を凝らすと結構泳いでいるのが見えることがある。新潟の北部はあまり大きなイカを見たことがなかったが、動画ではキロオーバーのアオリイカを釣っているのを見たことがある。まさか異世界であんな風な大物イカに出会えることになるとは思ってもいなかった。絶対に釣らなければ!
俺は木の枝を取り出し、エギをクラフトした。この木はスピナさんが拾った流木ではない、馬車を作った時の残りの枝だ。だから勝手に使っても問題ないのだ。作ったのは大き目のエギ、四号以上はあるんじゃないのかな? アオリイカは三号までしか使ったことないから大きさに詳しくない。木材だけで作ったので木目のエギだ。金属を忘れていたためにカンナもついていない。
ひとまず、ショアジギングロッドでキャストしてみた。
「やっぱり浮くかー」
エギは浮いた。そりゃあ丸太も浮くんだから、ただ木をクラフトしただけでは浮くよね。
よくよく考えたら、あっちの世界のエギの頭の下にはオモリがあった気がする。なんの素材がいいか迷ったが、岩礁帯では根掛かりが怖い。ラインは無尽蔵っぽいけど、タングステンは戻ってくるかわからない。なので今回は鉄貨で代用する。お金をあまり素材にしすぎると経済に混乱を起こしそうで怖いが、鉱石の採れる場所がわからないし、釣りの為に犠牲になってもらう。
鉄貨でクラフトしたエギはなかなかの出来だった。釣り人ならわかると思うのだが、気に入った疑似餌はそれだけで釣れそうな感じがする。釣れてなくても釣れそうな感じがするのだ、俺が作った木目のエギだが、なんだか釣れそうな気がする。
ショアジギングロッドでキャストし、エギの動きを確認する。思っていたよりも沈むのが早い、そしてショアジギングロッドでは、竿もグリップも長くてしゃくりにくい。竿をクラフトで調整しても、今度はリールが大きすぎるか……どっちにしてもバランスが悪いが、もともとしゃくるようにできた竿だ、やりにくいがエギングのようにしゃくってみた。
ちなみに俺はエギングが得意じゃないので、リールのドラグは緩めにしてしゃくっている。そうすると、しゃくった時にドラグがすぐに効いて一瞬だけテンションが張ってきれいにエギがダートしてくれる気がするのだ。まぁ、普通より余計にラインが出るので張らない程度に少し多めにラインを巻き取ることになるのだが、腕がないので仕方がない。
今回はエギングロッドですらないということで、かなりやりづらいことこの上ないが、相手もでかいのでこのままでいく。何回かしゃくると見えていたイカが、エギのある方へ急突進していくのが見えた。反応はしてくれるようだな。
と思っていると、ジジジジジとドラグが鳴った。イカがエギを抱いたみたいだ。
俺は慌ててドラグを絞り、リールを巻き始めた。
タケダまではいかないまでも、イカの引きはなかなかなものだ。やはり大きいだけあって、今まで釣ったどのイカよりも引く。っていうか、釣っている感じがタコに似ている。もしかして今釣れているのはタコなのか? タコだったらそれはそれで嬉しいが……
ショアジギングのパワーに任せて引いていると、だんだんイカの様子が見えてきた。墨を吐いてるから間違いなくイカだ。
ここで俺はあることに気が付いた。こんなに大きなイカでは釣りあげられない。ギャフか、せめてタモが欲しい。しかし手元には何もないのだ、どうしようもないので釣竿をまたに挟んでマジックバックから木の枝と鉄貨を取り出し、ギャフをクラフトした。
作り出したギャフでイカをひっかけて、無事釣りあげることに成功した。かかった時から思っていたが、やはりでかい。これは食べ応えがありそうだ。イカは眉間のところに衝撃を与えると〆ることができる。俺は〆用ナイフを眉間に突き刺した、イカを通り越して岩礁にも刺さったが気にしてられない。あんまりチンタラしてると墨を吐かれて汚れるし、いいことがない。〆られたイカは一瞬で透明になった。毎回思うのだが、このスッと透明になるのは一体どういうことなんだろう? 最初〆た時はビックリしたものだ。
「これは食べ応えがありそうだ、いっぱい釣ってカイリさんにイカフライでも作ってもらおう」
そう言って俺はイカ釣りに熱中した。




