58.今日は休みにして好きなことをしよう
俺は今、猛烈に反省している。
理由は、メンバーの意見を確認せずに土地を購入してしまったからだ。
「本当にすみません、土地を買ってきちゃいました……」
今、エスポワールのメンバーは開店前の食堂に集まっている。
そこで、俺が購入した土地について話をしているところだ。
「ちなみにどこの土地を買ったんだ?」
「大工さん達が住んでいた集落だそうです。柵の内側を購入しました」
「……それは、ずいぶんと広く買ったな」
えぇ、購入を決めた後、柵をぐるっと回ってみたがずいぶんと広い。畑と訓練場を大きめに作っても余るだろう。ポジティブに考えると、訓練場を壁で覆わなくても訓練の様子が見られない程度には広い。っていうか、ベイツの街ってすごく広い街だったのね。メインストリートくらいしか活動範囲がなかったから、わからなかった。
「ひとまず、訓練場と畑が用意できます。もう秋口なので畑は春以降として、訓練場は早急に用意したいと思います。みなさん身体強化で走れば、あの集落までそれほど時間がかからないと思いますし、申し訳ありませんが、遠いのは訓練の一環ということで我慢してもらいたいです」
「どれくらい離れているのか見てみないとわからないが、基礎体力は大事だ。身体強化無しで走っていってもいい位じゃないのか?」
ポッパーさんが脳筋発言をしている。でも、今回はその発言に助けられている、ポッパーさんグッジョブ!
「あと、シルバーの厩舎も欲しいですね。今、シルバーのお家有りませんし」
そうなのだ、実はシルバーは今、実家に戻ってもらっている。宿には厩舎がないしどうしようもなく、早急に用意するからと、シルバーを購入した厩舎に宿代を払って泊ってもらっている。ちなみにトラにわがまま言わないように念を押してもらったから、迷惑はかけていないだろう。
「ひとまず明日、みんなで購入した土地を見に行きましょう。それで問題があれば、購入をキャンセルしたいと思います」
翌日、みんなで購入した元大工さん達が住んでいた集落に向かった。
みんな走っていったが俺はシルバーを厩舎から連れ出し、馬車に乗っている。あんなに遠い場所に走ってなんか行けない、ナギちゃん・ナミさんは後部座席に乗っている。
ランドくん・シャッドくん・エメさんも王都からの帰り道で何かに目覚めたのか、みんなと一緒に走っていった。まさかのクランクさんもだ! クランクさんはぽっちゃり系で俺に近いものを感じていたが、勘違いだったのかもしれない。
「ちょうどいい距離だ、ここでいいんじゃないか?」
ポッパーさんが満足そうに話している。なにが丁度いい距離なのかわからない。
というか、みんな不満はないということだった。土地が広いのが嬉しいらしい。この世界では土地を購入するのはなかなか容易なことではないみたいだ。
せっかくなので、この土地をどんな風にしようかと相談した。訓練場と畑は確定だ、あと厩舎も必要だろう。ただ、夜はシルバーだけの留守番になってしまうことになるが……
話し合った結果、訓練場が最優先事項となった。とにかく人目に付かないように、土地のど真ん中に大きく作ることになった。元大工さんの集落でいうと、中央の広場みたいになっている区域だ。ここに整地した訓練場と、屋内の訓練場、そして食事などができる休憩所を作り、隣に厩舎を作ることになった。
というか、今までせっせとスピナさんが集めてくれた流木で作った。放置されていた空き家も材料として使ったので、材料は問題なくクラフトできた。今まで集めた流木を使ったのだが、スピナさんがちょっと満足げな顔をしていた。自分の流木が、クランの建物になって嬉しかったのだろう。
新しくできた屋外の訓練場で、みんな魔力循環の身体強化を使った訓練を始めだした。どれだけ訓練をしたかったのか?
スピナさんは、ナミさんとナギちゃんに魔力循環のコツを教えているようだ。
カイリさんはポッパーさんと木剣みたいなものを持ち出して打ち合っている。もしかして走って持ってきたのか? ポッパーさんの木剣なんてめっちゃでかいんだけど……王都出るときもってなかっただろ、どっから調達してきた?
シャッドくんとクランクさんは、魔力循環の色について研究を最近始めている。なにか進捗があればいいのだが。
シルバーはトラと一緒に厩舎へ行ってしまった。いつの間にシルバーとトラは仲良くなったのか?
各々好きなように過ごしているので、俺も好きなことをさせてもらおう。
そう言って俺は東門を抜け、森に出た。森からしばらく北っぽい方面へ、塀沿いに歩いていくと海に出た。
「よかった、迷わず海に出れた」
海に出る確率は二分の一だった、左に行くか右に行くか……50%って高い確率と思いがちだが実は違う。結構外れるのだ、スロットの80%継続とかだって、3回連続外れたりするからな。50%なんてほぼ外れなのだ。
目の前の海は、サーフと言うよりは磯場が多い場所だった。俺はひょいひょいと岩場を渡りながら海を観察していった。




