54.イルミネーションかよ!
王都を出て一週間が経った。
それにしても王都では大変だった。ポッパーさんがなんじゃこりゃと叫ぶし、息子のランドくんは奇抜な馬車に目をキラキラさせていた。
ちなみにポッパーさん家族と、シャッドくんの荷物は、後部座席に入る量だったので積み込んで出発した。王都を出るまでは、トラがシルバーの背中で、クランクさんが助手席、カイリさんが歩いてくれて、女性と子供とポッパーさんが後部座席に乗ってもらった。後部座席はイスがないけど結構快適なはずだ。ただ、荷物がガタガタうるさかったので王都を出たらマジックバックに詰め込んだ。みんなにはこのことは内緒だよと伝えておいた。
馬車の興奮が落ち着いたのもつかの間、また問題が起きた。
野宿の時に、カイリさんがスピナさんと手合わせをしたいと言い出したのだ。そこにポッパーさんも乗っかった。スピナさんの身体強化のすごさを冒険者ギルドの食堂で聞いていたらしく、興味があったらしい。
人目もないので、スピナさんには魔力循環をしてケガしないように頑張ってね、と軽い気持ちで許可を出したのだが、なんとスピナさんがカイリさんを圧倒してしまった。これには俺もビックリした。
そして、カイリさんとポッパーさんがめちゃくちゃ騒ぎ出した。魔力循環を教えろと……しかたないので、魔力循環の極意『グルグル廻してギュッとしてドン』を説明した。二人とも口をあけて虚無の顔をしていたが、スピナさんの説明を受けてカイリさんが特訓しだした。
カイリさんの魔力循環訓練を見ているポッパーさん。やはり身体が不自由になったのが悔しいようだ。健康な体なら、カイリさんと一緒に特訓しているのだろう。だから俺はポッパーさんにポカリエスを渡した。
「青汁です、不味くても、もう一杯はあげれません」
「……いただく」
ポッパーさんは何言ってんだコイツ? みたいな顔をしてポカリエスを受け取りチビチビ飲んでいた。不味いって言ってるのに警戒なく飲むくらい落ち込んでいたのだろう。
「なんじゃこりゃ~~~!」
しばらくしたところでポッパーさんが騒ぎ出した。伝説級の秘薬がいい仕事をしたのだろう。
ポッパーさんは、ジャンプしたり、身体をひねったりして、身体の状況を確認後、カイリさんの横に並び魔力循環の訓練を一緒にやり始めた。カイリさんも自然にポッパーさんを受け入れるあたりおとなだなと思う。
ちなみにカイリさんの横にスピナさんが居て光っていたため、カイリさんの奥にいるポッパーさんの表情は見えなかった。でも、笑い声も聞こえるし、カイリさんもスピナさんも笑顔だった。
それだけで俺は満足だ。
しばらく時間が経った。
今俺の目の前には、スピナさんを中心に、俺とトラ以外の全員が円になって魔力循環の訓練をしている。スピナさんが真中で光っているので、炎がないキャンプファイヤーをしているような状態になった。
ポッパーさんの笑い声に気が付いた、ランドくんとエメさんが駆け寄ってきて。そして、みんなが集まっているのを見た、シャッドくんとクランクさんも寄ってきて、なぜかみんなで魔力循環を始めたのだ。たまにスピナさんが腕をグルグルしてなにか説明をし、それを聞いたみんながうなづいている。なにか儀式でも始まるのか?
あいにく俺は、魔力循環の訓練をすると、魔力切れを起こして気を失ってしまうから参加はできない。ちょっと離れたところからスピナさんの師匠として、うんうんと腕を組みながらうなづいておいた。
更に一週間が経った。
例の儀式は毎日続いていた。というか、訓練をやりたいがために毎日野宿だった。
食料はマジックバックにたくさんあるし、じいちゃんのコンロとかも使ってご飯事情は潤っている。今、この隊には食堂の料理人と料理人見習いがいるからな。食事は問題ない、食事は……
問題なのは、なんだか全員光始めたことだ。
困ったことに、魔力循環訓練を始めた全員が光だしたのだ! 光らないのは俺とトラだけ。みんな一体どんな体質をしているのだ?
体質といえば、光の色が違ったのだ。
スピナさんは白、ポッパーさんは赤、カイリさんは青、クランクさんは緑、シャッドくんは茶色、エメさんは赤、ランドくんも赤だった。今でもスピナさんを中心に輪になってやっているので、すごく色鮮やかだ。どういう基準で色が違うのかはわからないけど、わかったこともある。
身体強化がめちゃくちゃ強化されていたことだ。
カイリさんとポッパーさん曰く、世間一般の身体強化と別次元だそうだ。実際手合わせを見たけど、カイリさんとポッパーさんの手合わせはやばかった。ものすごいスピードで何かやっている、二人とも笑いながらなのが怖い。
スピナさんは経験の差なのか、つい先日はカイリさんを圧倒していたのに、カイリさんに負けてしまった。身体強化だけでは上限があるのだろうか? 最近は、魔力循環をスピナさんが教え、戦い方をポッパーさんとカイリさんから学んでいる。本人も楽しそうにしているしいいことだ。もしかしたら大きな木の近くにある最難関のダンジョンに挑む日もそう遠くないのかもしれない。
そんなこんなであっという間に三週間が経ち、俺はベイツの街に帰ってきた。




