53.シルバーに会いに行くのを忘れてたやつ
「よーし、資金はたんまり手に入った! さっさと帰ろう!」
俺は今、貴族街の宿で帰宅宣言をしている。
「アタルさんはベイツがそんなに好きなんですか?」
クランクさん、わかってないなぁ。
「海が近いベイツの街は、俺にとって天国ですよ。いつでも時間ができたら釣りができるなんて、最高です!」
クランクさんが珍しそうにしているが、俺には釣りができない王都よりも、釣りができるベイツの方が好きなのだ。ミドリ草のおかげでお金の心配も減った、あとはパーティーメンバーを一流に育てなければならない。
「でも、ベイツの街にはダンジョンがないんですよね。そこだけが残念です」
「ダンジョンにそんなに行きたいのか?」
カイリさんが俺のダンジョン発言にくいついてきた。
「そうですね、ダンジョンって俺のイメージだと強い魔物と珍しい宝が手に入るんですよね? もしかしたら、スピナさんに有効なアイテムとかもあるかもしれないし、できるだけ高難易度のダンジョンに挑戦してみたいですね」
「……高難易度のダンジョンで良かったら、ベイツの街からちょっと離れたところにあるぞ?」
え? ベイツの街近くに高難易度のダンジョンがあるの? 初耳なんだけど?
話を聞いてみると、俺がミドリ草を採取している大きな木の近くにダンジョンがあるらしい。
そのダンジョンは超高難易度で、入り口付近は魔物が居なく、2階層になるといきなり高ランクの魔物が出てくるらしい。
巷では古龍様の魔力から逃げてきた魔物がそこに留まっているだとか、古龍様の高濃度魔力がダンジョンになった為に、高難易度になったなどとささやかれている。ちなみに今まで一度もスタンピードは起こったことがないから奥に進まなければ安全なダンジョンだと言われているようだ。
「よし! じゃあ、そのダンジョン攻略を目標に頑張ろう」
「え?」
スピナさんがビックリしている。
「スピナさん、大丈夫です。やればできる!」
「「「……」」」
スピナさん、カイリさん、クランクさんが黙った。そんなに危ないダンジョンなの?
「まぁ、無理ない程度に行きますので……まずは訓練から頑張りましょう!」
俺は今、冒険者ギルドの食堂でお食事会を開いている。
今日は、ポッパーさんの奥さんと、お子さんも参加しているのだ。実に嬉しい。
奥さんはエメさん、お子さんはランドくんと言うらしい。ランドくんはナギちゃんより二つ年上だということを聞いた。
ちなみに、ポッパーさんはパーティー加入することになった。ベイツに行ったら、冒険者ギルドでパーティー登録することにした。
シャッドくんも両親を説得したらしく、いつでもベイツに行けると楽しそうに話してくれた。
「よし、じゃあ急ですが、明日早朝ベイツに出発します。申し訳ありませんが、貴族街の門前に集合してください。大きな荷物があれば自宅に回りますので遠慮なく言ってくださいね!」
「アタルさんよ、本当についていっていいのか?」
ポッパーさんはいまだに不安らしい。
「大丈夫ですよ、大船に乗ったつもりでいてください! あ、ちなみに明日は馬車ですからね、船じゃないですよ! 俺の、愛馬シルバーを紹介します」
「お、おう」
まさかポッパーさんは馬が苦手なのか? シルバーはじゃじゃ馬じゃないから安心していいよ!
あぁ、やっとでベイツに帰れる。帰ったら秋口かぁ、秋の海は何が釣れるんだろう?
新潟だと、青物だったよな。地球温暖化の影響なのか、イナダが連れていた時期にだんだんサゴシが混ざって、サゴシの方が多い年もあったくらいだからな。ベイツでもタケダ以外の魚が釣りたいもんだ。
「はいよー! シルバー!」
俺は今、貴族街の宿屋を出たところだ。
数日間シルバーを見に行くのを忘れていたけど、元気にしていたようだ。なんだか毛並みがつやつやしている気がする。高級宿は馬のご飯も高級だったのかもしれない。
当り前だが、助手席にトラが座っているのでオート運転モードだ。トラ運転手が居ないと俺は遠出できないかもしれない。
貴族街の門前に三人の人影があった。
あらかじめ門番さんには、三人が早朝にくるということは伝えてある。例のあのゴールドカードのおかげで話はスムーズに進んだ。というか、このカード、返さなくても良かったのだろうか? 返せって言われなかったからそのまま持っているけど……
これからは騎士さんとも交流がありそうだし、返して欲しいと言われたら、「持ってきちゃった、テヘッ」みたいな感じで返却しよう。
「みなさん、おはようございます。さぁさぁ、馬車に乗ってください。荷物はこれで全部ですか? 忘れ物はありませんか?」
「「「……」」」
俺の愛馬シルバーに見惚れているのだろうか? こいつはトラが居ても、じゃじゃ馬化しなかった馬だからな。馬界では優秀なやつなんだ。トラと違って撫ででも引っ搔いたりしないし安全だぞ?
「……なんじゃこりゃ~~!」
ポッパーさんの大声が、早朝の王都に響き渡った。




