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49.宿泊客のいない宿屋は、なんて呼んだらいいんだろう?

「お、ポッパーじゃねぇか」


 怒鳴っていた男性は、カイリさんの知り合いだったらしい。

 奥から杖をついて歩いてきた男性はポッパーさんと言うらしい。カイリさんよりも年上かな? カイリさんと似た藍色っぽい髪のお兄さんだ。杖をついているので身体が不自由だと思うのだが、なぜかムキムキだ。その体型をどうやって維持しているのかが知りたい。


「なんだ、カイリか。久しぶりだな、王都に戻ってきたのか?」


「護衛の依頼で来てるんだ、それより護衛の依頼主がお前に興味あるって言っているぞ?」


 カイリさんがニヤニヤしながら話している。落ち込んでる人にニヤニヤしながらお話しするのは、俺は良くないと思うな!


「こんにちは、アタルといいます。ここでは何ですので、ギルドの食堂へ行きませんか?」




 俺は今、ギルドが運営しているという食堂にきている。

 食堂はめちゃくちゃ近かった。ギルドの裏手にあって、受付の隣を進んで扉を開けると目の前にあった。これは建物が違うだけでギルド内にあるって言ってもいいんじゃないか? あきらかに同じ敷地内だろう。


 そんなことはいい、現在芋汁待ちだ。

 俺が芋汁を即決断すると、ポッパーさんは『え?』って顔をしたのを俺は見逃していない。

 皆さんにも奢りますよと言ったのだが、ポッパーさんは芋汁を頼んでた。遠慮したのだろう。

 スピナさんは魚の塩焼き、カイリさんは肉の塩炒めだった。

 スピナさんの魚はなんだろう? タケダかな? カイリさんの肉は……そういえば今まで肉の種類を聞いてないことを思いだした。ずっと謎肉を食べていたようだ。覚えていたら今度確認しよう……


「んー、どこの芋汁も同じ味のようですね」


「アタルの思い出の味は、再現無理そうか?」


 カイリさんは、俺が芋汁を思い出の味だって言ったことを覚えていてくれたらしい。じいちゃんの味なんだよな。


「もしかしたら、具材か作り方が違うのかもしれませんね」


「芋汁が思い出の味なのか?」


 ポッパーさんが芋汁を食べながら、芋汁の話題に喰いついてきた。


「えぇ、そうなんですけど……見た目と風味は似ているのですが、これじゃないんですよね」


 そう、これじゃない感があるのだ。別に嫌いな味ではないけど、これではない。何かが足りない。




「あの、その芋汁の話に興味があります」


 後ろから声が聞こえたので振り返ると、そこには茶色の髪の少年が立っていた。スピナさんよりも若い。というか、さっきの声がこの少年なら声変わりもしてないのだろう。

 たしか、芋汁をテーブルまで持ってきてくれた子だったはず……厨房のお手伝いさんかな?




「芋汁に興味があるんですか?」


 俺の目の前のテーブルには、二枚のギルドカードが並んでいる。

 一枚はポッパーさんのギルドカード。なんと、ポッパーさんはCランクの冒険者だった。職種は『戦士』だそうで、大剣を主に使っていたそうだ。ダンジョン攻略中に背後から魔物に襲われ、身体が思うように動かなくなったという。


 そして、さらに隣のギルドカードは、先ほど声をかけてきた芋汁少年シャッドくん。職種は『料理人』でFランク冒険者、Fランクなので未成年は確定だ。というより、料理人は冒険者の職種でいいのか? 足技が得意な戦う料理人は有名だが、それ系と思っていいのだろうか……と思っていたのだが、説明を聞くと冒険者ギルドの芋汁が大好きで冒険者ギルドに登録し、食堂で見習いをしていたそうだ。ちなみに芋の調理許可を最近取ったらしい、めっちゃアピールが上手だ。



「うちのパーティーには決まりがありまして、成人には必ず『さん』付けで呼んでもらうことにしています。シャッドくんは未成年で最年少なのですぐ馴染めそうですが、ポッパーさんは年下のスピナさんに『さん』付けで呼べますか?」


 これは必ず確認しないといけない。一人決まりを守れないと、みんな守れなくなる。人間は楽な方へ、楽な方へ行っちゃうからな。俺がリーダーなんだから、ここだけは譲れない。身体が不自由でも、戦えなくてもいいから、決まりを守って欲しい。名前の呼び方だけなんだから、やれない人はいないはずなのだ。


「それだけでいいならオレは大丈夫だ! あと、妻と子供もいるんだが、活動拠点のベイツに行っても生活していけると思うか?」


 ん~、生活だけなら大丈夫だと思う、贅沢できるかどうかは約束できないかな?


「ちなみにカイリさん、お金の問題は置いといて、部屋は大丈夫そうですか?」


「部屋ならたくさんある、大部屋もあるぞ」


 なんか貴族みたいな発言をしているけど、カイリさんは宿泊客がいない宿屋の経営者だ。


「ちなみに、シャッドくんを食堂で雇ってもらえたりします?」


「最近アタルのおかげで忙しいからな! 大丈夫だ!」


 なんだかカイリさん頼りになってしまったが、問題なさそうだ。


「スピナさん、お二人がパーティーに参加しても、うまくやっていけそうですか?」


「はい、ポッパーさんには戦い方を教えてもらいたいですし、シャッドくんにはおいしいものを作ってもらいたいです」


 仲間が増えて、更になにをやって欲しいかまで言えるなんて、いい子だ。


「それでは、お二人が良ければ『エスポワール』に参加をお願いします。ポッパーさんは家族と、シャッドくんは親御さんにベイツに行ってもいいのか、確認をしてきてください」


「それはありがたいが、本当にいいのか? 俺はこの身体だぞ?」


「問題ない」


 なぜかカイリさんがポッパーさんの質問に、どや顔で答えていた。

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