47.面接官、『俺』のターン!
「それでは、エスポワール加入の動機を教えてください」
面接と言ったらこれだろう。はっきり言って入社するときの動機なんて、給料が良かったとか、大企業だからとかだろう。ちなみに俺は派遣社員として働いていたら、「知り合いが社員を募集しているからどうだ?」 と提案されてのコネ入社だ。面接のコツとかなんてしらない。
だが、面接を受けたことはあまりないが、面接をしたことは結構あったりする。派遣社員の面接なのだが、派遣社員だって担当の人から連れられてきているので志望動機なんてない。だから、その人を会社案内してる時の態度や質問を注視していた。
あとは、応接室に戻ってきてから「がんばれそうですか?」と聞いて終わりだ。
要するに「動機を教えてください」なんてテンプレをしたのが、今初めてなのだ。どんな返答が返ってきても評価ができない!
「スピナ様が、加入しなければ守らせてくれないとおっしゃったので……」
うん、知ってる……それ以前に加入したいとも言われてもいない。
なぜか加入したいみたいな流れになってるが……
「私のパーティーは、全員平等に接します。皆さんを『さん』付けで呼びますし、スピナさんにも『さん』付けで接するように決まりを作っています。ところで、ブレイドさんはスピナさんを『スピナさん』と呼べますか?」
スピナさんにも『さん』付けは絶対だと言ってしまったしね、これは譲れない。
そういやさっきブレイドさんに『さん』付けしてなかったな。あれは、仕事をするうえで、平等と思ってないと考えての発言だったということにしておこう
「……」
「あと、これから先パーティーメンバーが増えた場合、他のメンバーが危険にさらされた場合、スピナさんよりも優先して助けることができますか? これができないと加入を認めることはできません」
スピナさん絶対守るマンはいらないのだ!
「それはスピナさ……んの護衛を優先するなということか?」
「そうなりますね、もし加入して頂けるのなら、ブレイドさんには聖女の騎士ではなく、エスポワールの騎士になっていただきたいですね」
「それでは僕が今までやってきたことは……」
なにを今までやってきたんだ? 数か月間、行方不明少女を探してたことか?
「さっきからそれ言ってますけど、数か月間、ブレイドさんはスピナさんを護れてはいませんでしたよね? でも、俺はスピナさんとパーティーを共にし、健康に過ごしていました。ブレイドさんでなくても、スピナさんは護られています。あと、考え方を変えて欲しいのですが、スピナさんの周りに人が増えれば増えるだけ、スピナさんは安全になっていくと思いますが?」
実際、協会からはいないほうがいいと思われている節がある。
王都は彼女には危険な場所かもしれない。釣りは名残惜しいが、用事が終わったら早めに帰ろう。
「しかし、アタル……さんは怪しすぎる。管理職なんて……」
それは俺も思う。怪しさが上限突破しているだろう。
そうだそうだ、クラフトさんに身分を証明するものを、もう一個預かっていたな。
「身分の証明になるのかわかりませんが、これを……」
そう言って、ゴールドに輝く王様の招待券をブレイドさんに見せた。
さすがにこれは渡すのは良くないだろう、俺のじゃないし。
「まさか本当に……」
嘘なんかじゃない、でもこういう時は嘘じゃないと言わない方が効果的だと俺は知っている、こういう時はニコっと笑うのだ。
『ニヤニヤしてるニャ』
ニヤニヤしてるんじゃない、余裕の笑みをしているのだ。なんて失礼な猫だ!
「そうそう、活動拠点はベイツの街です。まぁ、平和で依頼は少ないですが、スピナさんにとっては目立たず安全でしょう。それと、貴族って……冒険者になれます?」
ここまで話していて気が付いた。貴族は冒険者になれるのか?
冒険者ギルドカードは持っているけど、ギルドカードは誰でも作れる。
専業の冒険者になれるかなれないのかが心配だ。
「それなら心配ない、僕は三男だから貴族のしがらみはない」
いつの間にか、なんかやる気になってきてるぞ~? こっちも前向きな感じの会話になってきてるし、断るに断れない雰囲気が出てきている。
昔の俺なら「がんばれますか?」と聞いて、「がんばれます」と言われても明らかに向かない人には担当者さんを通してお断りしていたのだが、お断りしていたのだが。
しかたがない、最終奥義をつかうか……
「それで、がんばれそうですか?」
「やれます! 一緒にスピナ様を護りましょう!」
あ、最後にボロを出したな! 絶対の約束『さん』付けしていない!
「すみません、今回は縁がなかったということで!」
そう言って、ブレイドさんのギルドカードを丁寧にお返しした。




