46.スピナさん、なぜか面接官に目覚める
ブレイドさんのギルドカードを確認し、テーブルの右手側においた。もちろんいつでも名前を確認できるように俺の方を向けてだ。
自慢じゃないが、俺は人の名前をなかなか覚えられない。顔は比較的すぐに覚えられるので苦労したことがないが、名前が覚えられないのだ。
しかし、特例があってイケメンの顔は覚えられない、全員同じ顔に見えてしまう。男性だけではない、女性もアイドルとか同じ顔にしか見えない。美形をつき詰めると、みんな同じ顔になるのかもしれない。
そしてこの世界の聖騎士という職業は、聖女の騎士だったようだ。
誰も驚いていないところを見ると常識らしい。ずっと、聖騎士は魔法……特に回復魔法系を使える騎士のことだと思い込んでいた。
いやいや、思い込みは良くないな。聖騎士は聖女の騎士だったのだ!
「今日はブレイドさんは休日ですか? 聖女様が見当たりませんが……」
確認をしただけなのだが、カイリさんが「くっ」っと笑いをこらえている。別に煽ったわけでなくて、聖女の騎士なら聖女を護っていなければいけないと思ったわけだ。騎士って、偉い人の護衛が仕事だよね?
「僕はスピナ様の聖騎士だ。スピナ様を護るのが仕事だ」
スピナさんを護るのが仕事なのに、一か月以上守っていなかったことになるのだが……職務放棄か?
「こちらのスピナさんとは一か月以上行動を共にしていましたが、ブレイドさんを見かけたことがありませんでしたよ。きっと似ているだけで、人違いでしょう」
毎日見ているはずなのに見間違えるなんて、聖騎士失格だろう。
「約三か月前からスピナ様は行方不明になっているのだ、お前がさらったのだろう!」
なんだ、コイツ……ポンコツか?
「私が誘拐犯だとして、聖騎士であるあなたに、こちらのスピナさんが助けを求めないのが人違いの証拠だと思うのですが……」
「グッ」
ブレイドさんは苦虫を噛んだような顔をしている。カフェで出てきたものに苦いものがあったのかもしれない。
「ちょっと不思議なんですけど、聖女様が行方不明っていう割に、誰も探していませんよね? ブレイドさんも、協会側の温度差に気が付いているんじゃないですか?」
あきらかにスピナさんのことを、協会側はどうでもいいと思っているだろう。っていうか、王都の人達も気にしていないっぽいんだよな。
「というか、王都の人達も聖女様がさらわれたのを聞いていないのですか? あんなにたくさんの人達の中で誘拐犯だって叫んでいたのに、誰も私を衛兵に突き出そうとした人はいませんでした。あ、今度王様に会うんですよ、せっかくだし聞いてみますね」
「え、な、なに言ってるんだ?」
「だから王様と会うから聖女様がさらわれたって聞いたけど大丈夫ですか? 探さないんですか? って聞いてきてあげます」
「い、いや、教会はスピナ様が居なくなったことを秘匿して……」
「いつかバレる隠し事を協会がすると思ってるんですか?」
「しかし、スピナ様に会いに行ったらそう言われたのだ。聖騎士なら探してきなさいと」
めんどくさいなー。スピナさんは見つかりっこないから探してこい、もう来るなって言われただけだろ。どうやってごまかせばいいかわからん。
「アタルさん、私が説明するのでもう大丈夫です。ブレイド、私は聖魔法のスキルが発動できなかったために協会より追放されました。私はベイツの街で途方に暮れていたところをアタルさんに助けてもらったのです。現在の私はパーティー『エスポワール』の冒険者です。護衛は必要ありません」
やーい、やーい、スピナさんに『さん』付けしてもらえないでやんのー!
『さん』付けされない大人は「お前なんかまだまだ成人に見られないんだよ」って言われているのと同じなんだからなー! 実際俺には『さん』付けだ! もしかしたら俺の職種は聖・管理職だったのかもしれないな!
ブレイドさんは、俺がこんなことを考える時間があったのにも関わらず、いまだに固まっている。
「そ、それでは私が今まで努力してきたのをいったい誰の為に……」
「ハンナでいいのでは?」
ハンナさん? 新し人物が出てきた。噂のもう一人の聖女様か、仲悪いって言ってたな。
「ハンナ様は……聖騎士として護ろうとはおもえない」
なんかめんどくさい人っぽい雰囲気が出てきたぞ? ハンナさんはめんどくさい人なのか?
聖騎士がボイコットしようとするなんてよっぽどだろう。ボイコットするってことは聖騎士には組合があるのか? 春闘とかするのだろうか? 違う意味で戦ってそうだけど。
「聖女でなくなっても、僕はスピナ様の騎士でいたい!」
なんか、痛いこと言いだしたぞ。なんかイケメンだから様になってるけど……
「それでは、アタルさんのパーティーに加入されては? アタルさんの元に付くことになるので、アタルさんの指示には従ってもらうことになりますが」
なんか急にスピナさんが面接しだしたぞ、主導権は俺に何とか引き戻さないと!




