45.聖女の騎士
今日は冒険者ギルドに向かう予定だ。
朝食もデカ盛り店かってくらいの量が出てきた。一品一品の量も多めだが、品数も多い。完食したら多くなるなら、いっぱい残したら減るシステムがないのだろうか? それで足りなくなったらと考えるとリスクがあるから、ならないのだろうな……
「王都の冒険者ギルドは、やはり大きいのですか?」
貴族街の門をくぐったところで、カイリさんに質問してみた。
貴族街に入るのはチェックがあったが、出るのは特に何もなかった。これってバレずに侵入できれば、悪いことし放題なんじゃないかな? やらないけど!
「この大陸の本部だからな。登録している冒険者は多い、でも高ランクの冒険者滞在しているのは稀だな。いてもダンジョンに潜っているか、スタンピードの前兆が見つかって高ランク依頼が出てる時くらいじゃないか?」
ダンジョンがあるのね、潜ってみたいけど今回は無理だろう。
時間もないし人もいない、ダンジョン内で釣りができたら楽しいだろうな。釣りあげたら煙になって消えるのだろうか?
「スピナ様?」
なんか後ろからスピナさんが呼ばれたようがする?
スピナさんの知り合いかな? 元々王都の教会に居たって聞いたことがあるし、知り合いかな?
振り向くとそこには金髪碧眼のイケメン少年がいる。俺の天敵だ。
イケメン少年はだだだっと俺たちの正面に回り込むと、叫んだ。
「誘拐犯め! スピナ様を王都から連れ出す気か! 衛兵に突き出してやる!」
え? 何言ってんの? 連れ出したんじゃなくて連れてきたんですけどー!
「スピナさん、知り合いですか?」
「シラナイヒトデス」
明らかにきょどっているが、知らない人らしい。これは相手にするべきなのか、知らないふりするべきなのか……そういえばこいつは敵だった。
「同姓同名の人違いだったようですね。失礼します」
敵とは出来るだけ関わらないようにした方がいい。リスクはできるだけ減らしたい。
「ちょ、待てよ!」
この世界でもその言葉が使われているのか! そう思ってしまったら足が止まってしまった。コイツなかなかやるな。
後ろを振り向いたらカイリさんに少年は腕をひねり上げられていた。なんだかカイリさん護衛っぽい。
冒険者ギルドに案内してくれるはずのカイリさんが、少年を取り押さえているので動けない。元王都にいたスピナさんに案内を頼むべきか? でも人違いって言った手前、スピナさんに道案内をお願いするのも違う気がする、王都の道に明るいなんてばれたら、スピナさんは王都に居ましたよって言っているも同然じゃないか。
困った、非常に困った。何をどうしてもスピナさんを人違いだとごまかせる手段が思いつかない。八方塞がりってやつだ。
「スピナさん、ちょっと目立ってきたのでお話を聞いていいですか?」
「はい……」
スピナさんの許可をもらったので、俺たちは近くのカフェっぽいところに向かった。
すごくオシャレな感じがするお店のテーブル席に着いた。さすが貴族街近くのお店、なんていうか……おしゃれだ。
俺の隣にスピナさん、俺の目の前に少年で、隣にカイリさん。少年が飛び掛かってきても、護衛のカイリさんが何とかしてくれるだろう。
さて、どうしたものか……
テーブルに座り、対面でお話をする場合は俺にはこうするしか思いつかない。
「わたくし、こういうものです」
そう言って俺はギルドカードを相手に文字が見えるように両手に持ち、突き出した。
スピナさん以外の時が止まった。でも俺はオラオラなんかしない。相手がギルドカードを受け取るまで、少しづつ突き出すのみだ。たいていの人は察して受け取ってくれる。訓練を受けてない人でも、名刺は差し出されれば受け取ってくれるのだ。そのあと投げたり破いたりする人も昔はいたと聞くが、今時そんなことをする人は化石化しただろう。もしかしたら原油になっているかもしれない。
時は動き出した、少年はギルドカードを受け取り見ている。
「本当に管理職……」
カイリさんが驚いている。
そういえばカイリさんには、ちゃんと挨拶したことがなかったかもしれない。
ギルドカードの確認が終わっただろう頃合いを見て、俺は相手に話しかける。
「あなたは?」
「僕はブレイド・ヴィゴーレ、スピナ様の「名刺を見せてください!」」
なんか長くなりそうだったから名刺を催促した。
「名刺……」
「あ、ギルドカード的な身分を証明できるものはありますか?」
ここには名刺なんてなかったんだ……危ない。
「ギルドカードなら一応持っている……」
少年から銅素材のギルドカードを受け取った。
一応持っているのにDランクだと……本職のDランク冒険者に失礼じゃないか!
少年のギルドカードを折り曲げてしまおうと思ったが、グッと我慢した。そんなことをしたら、スピナさんに俺が腕をひねり上げられそうだ。彼女は身体強化が得意なのだ、身体が光り輝くくらいに得意だ。いろんな意味で危ないのでリスクは取れない。
少年の名前はブレイド・ヴィゴーレ。
名字がある人と初めて会ったな。こういう場合は大抵貴族だ、っていうか貴族だ。
職種は聖騎士、なんだか強そうでカッコいい。カッコいいのは聖騎士という名前で、イケメンのブレイドさんに言っているのではない。
「聖騎士ってどんな職種なんですか?」
「……知らないのか? 聖女の騎士だ!」
初耳でした。




