43.流木の高級感はハンパない
王城がある都市だけあって、王都はでかい。
王都は湖に囲まれた自然要塞になっているとカイリさんに聞いていたのだが、湖が見当たらない。
ずーっと塀が並んでいる、あの塀の終わりに湖があるのだろうか? どんな魚がいるんだろう? 滞在しているうちに是非釣りに行きたい。
今は見えないが、門に向かっているときに大きな建物が見えていた、あれが王城だろう。今回の目的地だ。城は湖の近くにあるのだろうか? なくても王都の中に大き目な川があって欲しい。とにかく3週間も釣りをしていなかったから、釣りをしたくてしょうがない、この際キスでもいい! あぁ~、キスしたい!
王都の門にはたくさんの人達が並んでいた。
徒歩の入場門と、馬車の入場門がある。その隣にはもう一つ門がある、クランクさん情報だと貴族用らしい。俺は王城から招待されたいわゆる来客だ、当然貴族用の門を使うのだと思っていたのだが、一般用らしい。待つの嫌だなー、とか文句言っていたら「ポカリエスの生産者として公になってもいいなら可能です」と言われたが目立ちたくない。そんなことがばれたら閉じ込められ、一生ミドリ草をいじっていなければならなくなりそうだ。
しかし、不思議なことが起こった! 馬車がじゃじゃ馬化した!
目の前の馬車がどんどん離脱していき、最終的には俺の前には馬車が2台しか残らなかったのだ。トラも並びたくはなかったのだろう。そして、あの2頭の馬はなかなか見どころがあるようだ。うちのシルバーの方が絶対に優秀だろうがな! よし王都は目前だ、いくぞ。はいよー! シルバー!
そういえば説明していなかったかもしれないが、シルバーはシルバーに決まった。よくよく考えたらじいちゃんの財産で購入したんだった。いうなれば、シルバーはじいちゃんの財産。スピナさんの反対は全くなかった。スピナさんから『スッテ』とか『テッパン』とか変な名前を希望されなくて本当に良かった。
ニヤニヤと、スピナさんの名前のセンスを勝手に想像している間に門までたどり着いていた。なにやら門番さんとクランクさんが、こっちをちらちら見ながら話していたが、通行の許可はもらえたようだ。この世界に猫はいないようだからな、珍しかったのだろう。
王都の中は人がたくさんいた、そして道幅が広かった。これくらいあれば余裕で馬車もすれ違えるだろう。ベイツの街は、南門周辺位でしか馬車を見かけなかったのは、道幅の問題だったのだろう。
ちょっとこんなに人がいると、じゃじゃ馬になった馬が危ないな。
「トラ、馬たちが危ないと思うのだが……」
そういうと『めんどくさいニャ』と言いながらなにかした様だ。それ以降じゃじゃ馬化が軟化した。明らかにスピードが落ちたり、立ち止まったりはしているようだが……暴れられるよりはマシか。というか、できるならやればいいのに。並ばなくて助かったから言わないけど。
門に繋がっている通りにはお店も多く、様々なものが売られている。これならナミさんへのお土産にも困らないだろう、ナギちゃんへのお土産も用意しておかないといけないな。ご当地のぬいぐるみとかキーホルダーが売っていたりしないだろうか? せっかくだからジャックくんにも買っていこう。秋野菜もいろいろ仕入れたいからな。
しばらく直進するとまた門があった。どうやらここからは貴族街で一般人は入れないらしい。
今のところ川は見当たらなかった。貴族街に川が流れているといいなと思いながら、クランクさんが話し終わるのを待った。やっぱりこっちをチラチラ見ている。そして何かを受け取っている。
俺は今、貴族街の門近くの宿にいる。門を通してもらったら速攻で到着だ!
馬車を敷地内に置き、シルバーを厩舎に預けてきた。あの馬車置き場は駐車場的な場所なのだろう。そしてシルバーはめっちゃ嬉しそうに厩舎へ入っていった。トラから離れられて解放感でいっぱいなのだろう。いつも背に乗っていたから、重かったか、暑かったのかもしれない。
宿はとても広く高級感がある。さすが王都の宿だ、部屋もいっぱいある、これで一室扱いなんてさすが貴族。従者とか執事とかいっぱい引き連れて泊まるのだろう。しかもお風呂がある!
外壁だけはカイリさんの宿の方が高級感があるように見える。流木ってすごいんだな。ベイツの村の壁が貴族の目に留まらなければいいが……
「王城から連絡があるまでここに泊ります。外出するときは、このカードを持っていてください。身分証明になります」
クランクさんがそう言って、小さなカードを手渡してくれた。ギルドカードの半分くらいの大きさで金色だ。二体の龍が向かい合って描かれている。曲げてみようとしたが結構硬い。純金ではないな、軽いし。
「折らないでくださいね! 折ったら大変なことになりますよ!」
クランクさんは焦っている。
自由行動になるみたいだし釣りに行きたいが、もうすぐ夕方になるだろう。しょうがないので部屋の冒険をしたいところだったが、部屋を強制的に決められてしまった。一番いい部屋で、部屋を借りた主が泊まる部屋らしい。
一番いい部屋だけあってかなり広いし調度品もたくさんある。トラが壊さないように目を光らせておかなければ!
「トラ、そこら辺のツボとか絵とか壊さないようにしてくれよ」
『わかってるニャ』
と言いながらトラは落ち着く場所を探しているようだ。
俺はイスに座り、ここではどんな魚が釣れるのか想像を膨らませるのであった。




