42.あっという間に王都です。
ジャックくんのお宅はすぐそこではなかった。異世界人のすぐそこほどあてにならないものはない。
いや、元の世界でもすぐそこはあまりあてにできなかった、すぐそこってコマーシャルしていたコンビニが、自転車で40分ほどかかったのだ。すぐそこはお客さんを逃がさない、魔法の言葉だったのかもしれない。
そして俺は、その自転車で40分もかかるコンビニでバイトをしていた。毎日往復80分もかけて……今思うと、どうかしてるな!
ジャックくん宅に到着すると、ジャックくんが出てきてくれた。これで知らない人だと言われたらどうしよう。ちょっとドキドキする。
「ジャックくん、約束通り買いにきたよ。大豆と野菜が欲しいです」
「朝市のおんちゃんだ! 来てくれたんだね。小屋にあるから見てってくれよ。約束どおりおまけするよ。いいだろ、じいちゃん?」
どうやら覚えてくれたようだ。おんちゃんは忘れてもらって良かったんだけどなぁ。
ジャックくんに案内され小屋に向かった、おじいさんもついてきてくれる。お金が絡むからな、心配だろう。ジャックくんのお宅は、かなり大きな農家なのだろうか? 小屋が家よりでかかった。小屋に住んではダメなのだろうか?
「ダイズはこれだけだけど、冬前にはまた収穫できるよ。野菜は、ウリー、ピーマ、ンダナス、レッドデビルが今の時期採れてるよ。」
なんか変な名前の野菜が混じってるな。んから始まる物の名前なんて初めてだけど、異世界変換がバグってるのか? レッドデビルってやべーな、ハバネロか?
ちなみに、ウリーはキュウリ、ピーマはピーマン、ンダナスはナス、レッドデビルはトマトだった。んー、ややこしい覚えられるかな? もっと呼びやすいように勝手に命名したい!
「ひとまず大豆は全部欲しいな。野菜も全部種類……金貨一枚分ちょうだい」
「え……」
ジャックくんが固まってしまった。計算が苦手そうだったからな、金貨で頭がバグったのかもしれない。
「おじいさん、お願いできますか? 馬車の前まで運んでもらえれば、俺が荷積みしますので」
前払いで金貨を一枚おじいさんに渡したのだが、銀貨の方がいいって言われたので銀貨を十枚渡した。ちなみに現在鉄貨と銅貨は品切れだ。
「思ってたよりいっぱいだ」
ジャックくんとおじいさんがせっせと袋や箱を持ってきてくる。俺は後部座席に乗り込み、カイリさんから野菜を受け取る。バケツリレーみたいな感じだ。もちろん後部座席に野菜は置かない。全部マジックバックに収納だ。
「その馬車のどこに、たくさんあった野菜が乗ってるんだ?」
ジャックくんは不思議がっている。
「スキマなく積んで、ギュッと押し込むと意外に乗るもんですよ」
そう、こういう時はギュッとするって言っとけば大抵解決する。
「ありがとうございました。これから王都に行くのでしばらくこれません。箱は戻ってきた時返却しますね」
長時間いるとボロが出そうだ……お礼を言い、俺はハスンの村を後にした。
「アタルさんはかなり高性能なマジックバックを持っているんですね。驚きました……」
「私はなんとなくわかっていました。いつもそのリュックから釣り道具を出しているので……」
クランクさんには早々にバレた。そもそもクランクさんには隠す気がなかったしな。
スピナさんは気が付いていたらしい。言われてみればリュックに釣り道具がどうやっても入らない。竿を入れるとしたらバキバキに折るしかないだろう。
竿を折るなんて絶対にできない、折れると折ったでは全然違のだ。
あ! っという間に3週間が過ぎた。もうすぐ王都が見えてくるらしい。
旅はとても平和だった、なにもない。
シルバーは俺が右行ってとか、左行ってとか言えば、自動で動いてくれるし、川を見つけても、みんな俺に釣りをさせてくれなかった。
問題があったと言えば、スピナさんの特訓を隠せなかったことだ。あの光る現象はさすがに隠せなかった。「すごいでしょ? 俺がアドバイスしたんですよ!」とごまかしておいたが、ごまかせただろうか?
野盗が出るという噂は本当だった。数十人の馬に乗った集団がコチラに向かってきたが、ある程度近づいたところで、じゃじゃ馬が発動。えらいこっちゃしている間に通り過ぎた。カイリさんは完全に道案内人になってしまった。
馬車は好評で、揺れが異常に少ないがどうしてだとカイリさんとクランクさんに聞かれたが、わからない。自作したけどわからないのだ。「金の力ですよ」と言っておいたが、納得してくれただろうか?鉄貨と銅貨を使っているから、嘘はいっていないんだけど……
あとは何かあっただろうか?
あぁ、野宿は馬車のおかげで快適だった。夜の番は必要だったが、カイリさんとクランクさん、俺とスピナさんとトラで別れて寝ていたため後部座席で十分足りた。料理も料理人がいるからな! 食材はたんまりある。
何かあったらカイリさんをすぐ起こすように言われていたが、特に問題はなかった。ちなみに俺の布団はスピナさんに譲った。レディーファーストってやつだな。よく妻に『意味わかって使ってんの?』って言われてたけど、よくわからない。
わかってるのは、布団を譲ったことは間違っていないってことだけだ。
そんなこんな三週間を思い浮かべていたら王都が見えてきた、ほんとうに料理人兼案内人のカイリさんには感謝したい。




