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41.大勢のお見送りの中、筆頭冒険者は旅に出る

 困ったことが起こった。


 なんだか知らないが、馬車の周りに人だかりができている。

 サプライズの為に、目立つ場所を陣取ったのが悪かったのだろうか? 目立ちすぎて人が集まり、逆に目立たなくなっている。

 あと、乗合馬車の馬たちが大はしゃぎのじゃじゃ馬化して、俺たちから離れて行った。馬は離れていくのに人は寄ってくる、そして話しかけてはこない。なんだか恐ろしい現象が起こってるんじゃないか?


 うすうす感じていたのだが、この世界の馬たちはじゃじゃ馬ではなさそうだ。たぶんだが、トラを怖がっているように感じてきた。動物にはトラの正体がわかるのだろうか? 野生の感ってやつか? 飼われているけど。


 と考えると、シルバーはパニック起こさない分、根性があるのかもしれない。そんでもって、トラは馬とも会話ができている節がある、その場合は、俺には「ニャ」としか聞こえないが……

 誰も御者ができない場合はトラにやってもらおう。助手席がお気にいりそうだし、問題はないだろう。みんなには、すっごく賢い馬を偶然買えたっていうことにすれば問題ないと思う。


 さて、スピナさん達三人はいつになったら来るのだろう。そろそろ待ち合わせの時間になりそうだが……


「ほら言った通りだろ! アタルが変なことしない訳がないんだよ」


 おぉ、カイリさんが俺を発見してくれた! 失礼なこと言われているけど、今日は聞かなかったことにする。早くこっちきてー!

 それにしても、カイリさんの言い方からしてサプライズはバレていたようだ。しかも変なことをすると勘違いされて……


「皆さん、おはようございます。ここは居心地が悪いので早く街を出ましょう!」


 そう言って散々お世話になったベイツの村を、急ぎ気味で抜け出す。

 もう馬車に乗っている場合ではない、馬車はあるけどみんな歩きだ!




「ふぅ、ベイツ筆頭冒険者の見送り人が多くて困りましたよ。人気者はつらいですね」


「アタルは南側の住人に知り合い少ないだろ? あれはお前を見送るために集まっていたのではないぞ」


 俺は上の方に歩いていたから、北門から出たと思っていたのだが……あそこは南側なのか。方角がちょっとよくわからない。あの人だかりが俺の見送りじゃないっていうのもよくわからない。


「アタルさん、この馬車? はどこで買ったんですか? 王都でも見たことがありませんが?」


 スピナさんは馬車が気になるらしい。この世界ではずいぶんスポーティーなデザインの馬車が気になるらしい。俺はできるだけ気にしないことにしているが。


「自作ですよ。すばらしい出来でしょう!」


 自分で作ったものなのに出来が悪いなんて言いたくない。できないのを認め、できる人に教えを乞うことは大切だが、今回はその時ではない! 不出来を認めてしまう イコール 俺のイメージ力のなさを認めてしまうからだ。イメージ力がないのは自覚してるが、ないと思われたくはないのだ。


「作ったって……ポカリエスといいどうなっているんでしょう?」


 クランクさんは戸惑っているようだ。俺もポカリエスにはかなりの衝撃を受けたぞ!


「ちょっとわがまま言って申し訳ないんですけど、ハスンの村を経由して王都に向かってもらいたいのです。あと、御者きる人はいませんか?」


 誰もできないらしい。


「……勝手に進んでいるようだが」


 カイリさんは自動運転機能に気が付いたようだ。こうなったら、プランBに切り替えだ! 前もって起こりえる事象を考えておき、それへの対処法を用意しておくことは大切なことだ。


「仕方がありません、俺が馬車を操りますが地理がわかりません。道案内は誰かお願いします」


「それは俺がやるぜ。護衛が中で休んでいるわけにいかないからな! それに依頼報酬がべらぼうに高額だったからな。やれることは何でもやるぜ!」


 え? 高すぎた? ナミさんは高すぎって言いたかったのか、お詫びにお土産をたくさん買って来よう。


 スピナさんとクランクさんには席がない後部座席に乗ってもらい。カイリさんには助手席に乗ってもらった。ここなら何かあってもすぐに飛び出せるだろう。トラには申し訳ないが俺の膝の上に乗ってもらおうとしたら、シルバーの背中に乗ってしまった……そこ見晴らし良さそうだもんな。


「それでは出発します。はいよー! シルバー!」


 掛け声とともに、ゆっくりと馬車は動き出す。大豆いっぱいあるといいなぁ。




 ハスンの村に到着したようだ。ハスンの村は畑だらけだった。ポツンポツンと家が建っている。


「ジャックくんの家はどこだろう?」


 だれか人がいないかなと思いながら、あぜ道を進む。しばらく進むと畑で作業をしているおじいさんを見つけた。第一村人発見だ! 朝早くからお疲れさまだ。


「すみません、ハスン村のジャックくんを訪ねてきたんですけど、お宅はどこか知りませんか?」


 俺はおじいさんに声を掛けた。ちゃんと聞こえただろうか? 集中していたり老化で聞こえない場合もあるからな。でも、勝手に畑に入るのも躊躇する。作物を踏んでしまってダメにしちゃったら、めちゃくちゃ怒られるだろう。


「あぁ? ジャックなら孫だ」


 聞こえていたようだ。そんでもって第一村人で当たりを引いたらしい。ラッキー!


「お宅まで案内してもらえますか? 野菜を仕入れに来ました」


「おぉ、お客さんかちょっと待っておくれ」


 そう言い、おじいさんは首にかけていた布で手を拭きながらこちらに歩いてきた。


「すぐそこだから、ついてきてくれ」


 おじいさんの後ろをシルバーが馬車を引き、ついていくのであった。

 あぜ道狭いけど、脱輪しないといいなと考えながら……

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