40.自動運転機能付き馬車
馬の購入も決まり、宿に戻ってきた。馬の名前は『シルバー』にしたい。はいよー! シルバー!って言いたい。あとでスピナさんに相談しよう。それにしても今回の度の為に散財してしまった、足りなくて遂にじいちゃんの財産に手を付けてしまった。明日も大豆と野菜を買うから、じいちゃんの財産に助けてもらおう。ポカリエスを売ったら補充しておくから許してね。
購入した馬は、明日早朝に引き渡しをしてもらえるようにお願いしておいた。シルバー(仮名)はウルウルした目でこっちを見ていたから、後ろ髪惹かれる思いだったが、泊まってる宿は、猫はオッケーだけど馬はさすがにダメだろうと思い諦めた。
夕飯時に、スピナさんとカイリさんに、明日は準備があるから先に海と逆の門に向かっていると伝えておいた。そう、サプライズを計画しているのだ。みんな王都までの長距離移動で不安になって、今日は寝れないかもしれない。でも明日になれば馬車を見て不安はどっかに吹っ飛ぶだろう! 今から楽しみだ。
明日は早起きだ、部屋に戻って速攻で魔力循環の訓練を行った。
朝だ、夏は日が長いので少し明るくなってるが、朝の鐘の前だと思う。
そういえば、鐘の音には一回も気が付かなかったな、どこで鳴ってるんだろう?
そーっと、扉を開け階段を降りるとナミさんがすでに起きていた。
「おはようございます、しばらく旅に出ます。鍵お返ししますね」
「カイリが何か良くないことを企んでそうって、心配してたわ。カイリなら野盗には後れを取らないとは思うけど、気を付けてね。行ってらっしゃい。あと、報酬あれ本気で言ってるの?」
安すぎたかな……王都から帰るときお土産いっぱい買って来よう。
「……行ってきます」
俺はうっすら明るくなった街並みを眺めながら、厩舎に向かう。
トラはまだ眠いのか、俺の背中で寝ている。正確には俺の背中のリュック型マジックバックの上に寝ている。いろいろ試した結果、そこが落ち着くらしい。馬車になったら馬車で寝るだろうけどな。
厩舎の入り口で、昨日の男性とシルバーが待っていてくれた。
今日も目がウルウルしている、感動の再開に感動しているのだろう。よろしくな、シルバー。まだ決定した名前でないので、俺は心の中でよろしくの挨拶をした。
シルバーを連れ、門に向かう。トラはなぜかシルバーの上に乗っている。人見知りなトラは、馬見知りではなかったようだ。厩舎の男性に返品は受け付けてないからな! と念を押されたが、こんなにおとなしい馬を手放すわけがないだろう。みんなはじゃじゃ馬とじゃれあってればいい!
シルバーと歩きながら考えていることがある。
どのタイミングで馬車を出せばいいかだ。街を出てから馬車を出すのが一番マジックバックをごまかせそうだ。ごまかせそうというのは、俺とつながりがあまりない人たちだ。この旅で絶対にクランクさんとスピナさんにはバレる。隠し通せるとは思ってないから、そこは気にしないことにした。
しかし、馬車を出していなくても、街から出る前にシルバーを見られてしまう。それではサプライズ失敗だ。シルバーは普通の馬だ、人化したり小さくなったりできないよな? 大丈夫だよな?
と考えると、みんなが揃う前に馬車を出して待機し、皆のビックリした顔をみながら「王都までこれで行こうぜ!」っていうのが一番サプライズ効果があるような気がする。よし、その作戦でいこう。
門の前だと人の目がある、運よく今歩いている小道には、人はいない。ここで出してシルバーに引いていってもらおう。
馬車は誰にもバレずに出せたと思う。しかし問題が起きた。
馬車と馬を繋ぐ紐? 縄? がない。さてどうしたものか……
少し考えて、いいものを思いついた、そういえばミドリ草採取の時に大きな木に絡みついていた蔓がマジックバックに入っていたはずだ。ミドリ草を束にしていた蔓だ。
あの蔓はすごく丈夫で、いろんなものを束ねるのに重宝するのだ。
この蔓をシルバーに合うようにクラフトしよう! 首にかかっただけだと苦しいだろう、首と足で固定して足の両側から蔓をのばして馬車に固定すればいいんじゃないかな? 一本だとバランスが悪く直進できない気がするので両足の二本がベストだろう。クラフトしてみると、なかなかいい感じに出来上がった。なんか高所作業者が使っているのフルハーネスみたいだな。あとでいろいろ飾りを付けてオシャレにしてみても良いかもしれないな!
俺は運転席、トラは助手席に座りどうやって進もうかな~って考えると、トラが「ニャ」と泣いた。
そしたらシルバーが前進した。もしや、この馬車は自動運転機能付きか!




