39.この世界の馬は全部じゃじゃ馬だ
俺の願いが届いたのかはわからないが、無事馬車ができた。
しかし、どこか思っていたのと違う。屋根があるから荷車ができなくてよかったが、おもってたのとなんか違う。
「ワンボックスカーのエンジン部分がなくなったみたいな感じだな」
そう、なんか車っぽいのだ。俺のイメージの馬車が車にひっぱられたのか? 運転席に座って馬を操れってことなのだろうか? 助手席もあるな、前にはハンドルもダッシュボードもないけど……後部座席側には席がなかった、なんか荷馬車っぽいな、中身だけだけど。
スプリングについては走ってみないとわからない、しかし硬貨は減っている、きっと合金になっているのだろう。ただし、この世界の鉄貨と銅貨になにか不純物が混じっていれば、もしかしたら異世界合金が爆誕しているかもしれない。
俺は馬車モドキをマジックバックに収納し街に戻った。
街に戻り宿の前を通ると、入り口でトラが日向ぼっこしていた。
「今から馬を買いに行くんだけど行くか?」
『……馬? 急にどうしたニャ?』
「馬車をクラフトしたんだよ。トラが引いてくれないだろ?」
トラが引けばネコ型のバスって言えるんだけどなぁ、面白いのに。
『絶対に嫌ニャ。馬ならオイラが選ぶニャ』
縄張り争いでもあるのか? 馬のことなんて知らないから、選んでもらえるなら選んで欲しい。
門番のタダンさんが言う通り、いつもの門と逆方向に歩いた。方向音痴だからまっすぐ行く。前の人があっちの門に行くはずだ! なんて決め込んで後ろをついていくなんて、絶対にしない。花火大会にいくとき、前の車も花火大会に行くはずだと決め込んでついていったら迷った時に、俺は学んだのだ!
朝市があった広場を抜け、ズンズンと直進すると塀が見えてきた。あの塀のどこかに門があるのだろう。あ、今回は門が目的地じゃない、馬を買わなければいけない。目的を忘れないようにしなければ!
門が見えてきた、この道は門まで続くメインストリートだったようだ。
そして俺は驚愕の事実を知る。
「乗合馬車がある……」
もしかしたら、ここにあるどれかの馬車に乗れば王都まで行けたのかもしれない。
でも、カイリさんが護衛が必要だって言ってたし、王都はすごく遠いって言っていた。なにかどこかで危険が待っているのは間違いないだろう。馬車を自作したのは間違っていないはずだ。大豆も買いに行かなければいけないし、野菜も買わないとお腹が減っちゃう。
馬車があるのだから、厩舎があるのだろう。さすがに馬と一緒に泊れる宿はないはずだ。
それにしてもさっきからヒヒーン! ヒヒーン! 騒がしい。
こっちの馬は、みんなじゃじゃ馬なのか? 御者さんも大変そうだ。
「お取込み中申し訳ないのですが、この辺で馬が買えるところってありますか?」
「こら、落ち着け! 馬が買える場所? あっちの方だ!」
あっちってどっちだ? 思ったが、馬をなだめるのに必死だ。こんなに忙しいのに場所を教えてくれたのだから、文句は言えない。御者さんがあっちって視線を移した方向へ歩いた。
ヒヒーン! ヒヒーン! ヒヒーン! と、ひときわ賑やかな建物がある。どうやらあそこが厩舎のようだ。それにしてもこの世界の馬はじゃじゃ馬ばかりだ、めっちゃ暴れてるじゃん。それで前に進むのかい? 御者さんも御しきれてないように見えるんだけど……
厩舎の入り口には人がいない、勝手に入っていっていいのだろうか?
しかも俺はちょっと焦っている、明日早朝に出発するのに、馬車だけあって馬が居なかったなんてなったら笑えないだろう。夕方も近い、怒られたら謝ろう。ひとまず馬の鳴き声が聞こえるに向かう。
厩舎の中はすごいことになってた。いろんな馬が暴れまわり、たくさんの人達が馬をなだめていた。職員さんかな?
「すみませーん、馬買いにきました」
近くの男性に声をかけたが忙しそうだ、さてどうしたものか。
キョロキョロ周りを見回しながら歩いていると、さっきの男性が駆け寄ってきた。
「すまんな、今大変な状態でな! 馬が欲しいのか? どんな馬がいいとか希望はあるか?」
え、そんなのおとなしい馬がいいに決まってるじゃん。そう思いながら俺は周りを見回す。
まわりは大運動会状態だ、俺にぶつかってこないのが不思議だ。そんなことを思っていると奥の方に灰色の馬が縮こまっているのが見えた。
「あの一番奥の方にいる、灰色の馬がいいですね。」
すごくおとなしそうだ。
「アイツか、あいつはかなりのじゃじゃ馬だぞ? 大丈夫か?」
いや、どう見ても一番おとなしいだろ? 大丈夫か?
「トラ、アイツでいいよな?」
『あれが一番まともニャ』
トラも同意見だそうだ。
男性と一緒に灰色の馬の元へ向か、灰色の毛色って何いろって言うんだろうな……と考えながら。
「この子はいくらで買えますか?」
「こいつは今まで買い手がつかなくて困ってたんだ。買ってくれるなら金貨一枚でいい」
安いのか安くないのかわからないが、なかなか体格もいいし、馬車を余裕で引けるだろう。ただ、奥手の性格そうなのが不安だが、愛情を持って接すれば心を開いてくれるだろう。俺は灰色の馬に近づき顔を覗き込む。目がウルウルしている、かわいい。今にも泣きそうな表情、きっと俺に買われないで置いていかれることを、心から心配しているのだろう。このウルウルの目を見たら放っておけない!
「この子、買います!」




