38.冒険準備は万全に
「エリーさん、おはようございます」
俺は冒険者ギルドやってきた、いろいろと打ち合わせが必要だからだ。
「アタルさん、おはようございます。ミドリ草の納品ですか?」
これ、絶対にギルドで『ミドリ草の人』って呼ばれてるやつだ……
「違います、実は王都へ行くことになりまして。護衛の指名依頼をしにきました」
「指名依頼? 誰にですか?」
目の前にベイツ筆頭冒険者がいるからな、それはそれは不思議なことだろう。
「カイリさんです、元Cランク冒険者のカイリさんが、王都への護衛を引く受けてくれました」
「それなら安心ですね!」
安心ですねじゃねーよ、こっちは不安になったぞ。
「いや、だからですね。カイリさんに指名依頼を出しに来たんです。ギルドに報酬金を預けておいたら万が一事故があって戻ってこれなくても、ナミさん達がお金を受け取ることができるじゃないですか」
「え? 依頼達成できなければ報酬はナシですよ?」
あれ、そうだっけ?
「んー、でもギルド通さないで依頼するのは冒険者として不誠実でしょ? 指名依頼するから報酬金額どれくらいにしたらいいか教えてください。ちなみに予定は2か月です」
なんでこっちがお金払うからやってって言わなきゃいけないんだ。なんかめんどくさいぞ。
「Cランク冒険者パーティーの護衛なら、ひと月金貨十枚が相場ですね」
高いんだか安いんだかわからないな。
「じゃあ帰ってくるの遅くなるかもしれないから金貨三十枚で依頼して」
「え、そんなにお金持ってるんですか?」
持ってるわけないでしょ! あっちで稼ぐんだよ。依頼失敗で報酬ナシなら報酬も後払いなんだろ!
「え? 報酬は後払いでいいんでしょ? お金は王都で稼ぐよ。王都なんだし金持ちがいっぱいいるでしょ」
「金持ちというか、貴族が多いんで気を付けて欲しいんですけど……依頼手数料で報酬金の一割必要ですけど、よろしいですか?」
「よろしいですよ」
そういって金貨三枚をエリーさんに渡した。エリーさんに計算早いですねって褒められたけど、なんか馬鹿にされた気分がする。あとでカイリさんがギルドにくるように伝えておくと話して、俺はギルドを後にした。
あと必要なのは、食料か。ぶっちゃけマジックバックにタケダがいっぱいいる。魚だけなら苦労はしないだろう。あと、初日にわがままいってハスンの村に回ってもらう予定だ。そこで大豆と一緒に野菜を買えばいいんじゃないか?
そうなるとやることないな。ひとまずカイリさんにギルドに行くように伝えるか……
カイリさんにギルドで指名依頼を受けるように伝え、門を抜け街の外に来た。
釣りでもするかなと思ったけど、またキス釣りは気が乗らない。そう考えると王都行きはタイミングが良かったかもしれない。
移動するなら馬車があると便利だよなぁ。寝れるし、横になれるし……問題は馬か。トラはおっきくなる気がないから期待はできない。
またギルドに戻るのも面倒なので門番のタダンさんに声を掛けた。
「おつかれさまです、タダンさん、馬ってどこで買えますか?」
「お疲れ様です。……馬を買うんですか?」
一般的に馬は買うものではないのだろうか?レンタル?
「えぇ、ちょっと旅に出るもんで……」
「旅に出ちゃうんですか? 寂しくなりますね……馬はコチラと逆側の門近くに行けば、売ってくれる人がいるかもしれないです」
「そうなんですね。あっちには行ったことがなかったので知りませんでした。ありがとうございます」
お礼を言って俺は山の方へ向かった。
ここら辺ならだれにも迷惑かけないだろう。
俺は今、山の中にいる。別に道に迷ってこんなところに来たわけではない。
実は、ベイツの村からちょっと距離はあるが山があるのだ。
位置としてはミドリ草が取れる大きな木の場所とベイツの街の中間あたりになる。これから俺は木こりになる。木を切って馬車を作るのだ! ちなみに大きな木は切っちゃいけなさそうなのでパスだ。
あいにく斧を持っていないが俺にはシーサーペントもサクッとやれる〆用ナイフがある。まず、木を倒したい方向に三角の切れ込みを入れる。予想通り豆腐を切るようにスッと切れる。あとは三角の頂点から水平に切れば三角の方向へ木が倒れる。倒れる方向には絶対に近づかない、KYは完璧だ!
KYは危険予知の略だ。あらかじめ何が危険なのを考え安全な作業をする。ケガをすれば働けなくて収入も減るし、会社も人のやりくりが大変なので、危険個所をあらかじめ洗い出し、危険作業はやらないのだ。危険個所を探すのも訓練が必要で、そのトレーニングをKYTと言われていたりする。
一時期流行った『空気読めない』の略でないので注意しなければならない。社会人でKYを見て、空気読めないなんて言っているやつが一番危険だ。出来る大人は危険個所を避ける、そいつを危険とみなして全員去っていくだろう。
KYが完璧な俺はもっと安全な方法を思い出した。切って倒れる前に収納してしまえばいいのだ。そうすれば木の下敷きになる危険がない! 完璧じゃないか。
俺は切れ込みを入れて木を切り、倒れる前に収納を繰り返し、結構な量を収納した。間伐を意識して木を切ったので山がはげることはないだろう。素人だから保証できないのが心残りだ。
ひとまず馬車の材料は問題ないだろう、もしかしたら馬車の他にも、バンガローなども作れちゃうかもしれない。
海辺に戻りマジックバックから先ほど切った木を取り出した。
……どごぉーん! 大きな音が海辺に響き渡る。
まさか倒れる前の状態で収納されるなんて思わないじゃん! これは危険が危ない。
誰もいない海辺で出してよかったよ。ひとまず安全な場所で木を出し切っちゃおう、危ない危ない。しばらくの間、どごぉーん、どごぉーんと海辺に鳴り響いた。
異世界物の馬車、そこで良く取り上げられるのは乗り心地の悪さだろう。
舗装されてない道を木の車輪で走るのだ、乗り心地が良い訳がないだろう。そこでスプリングの出番だ。
スプリングのことはからっきしだが、金属についてはそれなりに勉強したことがある。
鉄は錆びて、銅は錆びにくい! だ。そして最近、銅と鉄の合金があることも知った。ということは、銅と鉄があれば、銅のように錆びにくく、鉄の様な強度の金属をクラフトできるはずだ。どうやって作るかはよくわからないが、スキルなら問題ない。銅と鉄なら用意できるのだ!
俺は鉄貨と銅貨をジャラジャラと取り出した。これくらいあれば足りるだろう。
あとはイメージだ、馬車のイメージ、馬車のイメージ。サスペンションはスキルの謎補正で何とかなると信じている。
そう、願いはきっと叶う! クラフト!




