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35.ホウレンソウとシロギス

 その日の食堂は、エールがバカみたいに売れていた。

 油の関係もあり、少し割高に設定された新メニューのシロギスフライ。


 最初は全然売れなかった。そもそも、フライというのが珍しい。

 んで、同じく新メニューで追加されたナカボネフライだが、こちらは良心的な価格設定だったため、気になった人が頼んでいた。俺は今までこの世界でスナック菓子を見たことがない。サクサク食感の、しょっぱい食べ物を初めて食べる人には衝撃だろう。

 そしてこれは何の骨だ? と大騒ぎになった。そこでカイリさんが、シロギスと答えた後はシロギスフライがバカみたいに売れ、一瞬で完売となった。いっぱい釣ってきたけど俺とトラとスピナさんもいっぱい食べたからな。ナギちゃんも気に入ってくれたようで、一家で堪能したそうだ。


 シロギスってなんだ? と話題になっていたが、カイリさんは教えてなかった。

 きっとこれでボロ儲けするつもりなんだろう。そうなると俺にも儲けの一部が入ってくるので、俺もウハウハだ。背開きしているから、原型がわかりにくい。ヒレがあるから魚とわかりそうだが、キス特有のフワフワ食感が邪魔をして、魚に結び付いていなさそうだった。キスだとわかっても、今度は油の問題が出るし、動物の脂ではここまでおいしくならないだろう。この食堂オリジナルメニューとして、この夏は大活躍間違いないだろう。


 俺がお料理教室を開催している間、スピナさんは魔力循環の訓練をしていたそうだ。魔力は動いているが、膨張がわからないということだったので、腕を振り回し、小さく腕をブンブン振るより、肩から全身を使ってブンブンしたほうが引っ張られる感じがするから、頭から足まで全身を早く循環をさせるべきだろうと力説しておいた。


『知ったかぶりしているニャ』


 と、トラは呆れていたが違うって否定しないところを見ると、いいところを突いているのだろう。

 スピナさんも「なるほど、勉強になります!」と納得していた。

 聖魔法の糸口を感じているのか、昨日よりも元気が出てきている気がする。

 いや、もしかしたら食事をして活力が湧いてきたのかもしれない。本来のスピナさんが戻ってきているのだろう。



 次の日、おはようの挨拶後、一緒に朝食を摂り、スピナさんと別行動にする。

 アタルさんは海へ釣りに、スピナさんはギルトに依頼の選択しに行った。


 この地域は、荒れた天気はなかなかない。たまに雨がしとしと降るが、ゲリラ豪雨なんてまだ見たことがない。もっと暑くなるとそういったことがあるのだろうか?

 ってなわけで、本日の海も澄んでいる。今日もシロギスが爆釣するだろう。この夏でシロギスを絶滅させてしまわないといいが……


 数匹釣ったあたりで、スピナさんが帰ってきた。


「ただいま戻りました」


「おかえりー」


 シロギスを1匹釣りあげスピナさんに向かう。

 スピナさんは袋を持って流木探しに行こうとしている。

 え、いや、まって!


「スピナさん、ギルドであったことを教えてください。戻ってきたのはわかりました。ギルドで何かありましたか?」


「何もありませんでした」


 これはなにもなかったから、何も言わなかったってやつか?


「スピナさん、ギルドに朝向かってもらったのはお仕事の一環です。戻ってきたらなにもなくても報告してください。いつもと変わりなかったの一言でも大丈夫です。報告・連絡・相談は非常に大事なことです。ギルドにいってきたけど、なにもなかったですよーの報告。何か新しい依頼があればこんな依頼がありましたよーの連絡。エリーさんがこんなこと言ってましたでもいいです。そして、その依頼を受けるかどうかの相談。この三つ、ホウレンソウって言うんですけど是非考えなくて出来るようになってもらいたいです」


「……はい、ごめんなさい」


 めんどくせーやつだなって思われてるだろうな。


「まだ教えていなかったんですから、しょうがないです。こちらも説明不足でした。しかし、一緒にギルドに言って一緒に確認していたら、もったいないんですよ。スピナさんにギルドへお使いに行ってもらってる間に、俺はキスを釣ってお金を稼いでます。どうやらキスフライはお金になりそうです。ほら見て、スピナさんがギルドへ行っている間にキスが6匹も釣れました。ちゃんとカイリさんからもらった報酬の一部を、スピナさんにも分配します。スピナさんが居たから6匹も多く釣れたのです。スピナさんの行動にも価値があるんです。明日からもよろしくお願いしますね」


「……わかりました」


 どうやら落ち込ませてしまったらしい。でもうるさいなと言われても、言っていかなきゃチャランポランになってしまう。最近、言われてないからとか、聞いてないからとかいう子が多いんだよな。俺も言うけど! まぁ、大抵は上司が悪い、ちゃんと教えていこう。嫌われたってしょうがない、というか覚えてもらえないと、こっちが嫌いになっちゃうぞー。


「でも、次のお仕事を考え、流木拾いに率先して向かう姿勢は素晴らしいですね。それも将来お金になります。ただ、今はいろいろあってみんな流木を探しているので効率が悪いんです。つまらないと思いますがよろしくお願いしますね」


 いい所はちゃんと褒めておかなければ。ホウレンソウが大事だ、伝えなきゃわからないと言ってる本人が部下に良い点を伝えないのはよろしくない。いくら経験を積んでも他人が何を考えているかわからない、しっかり言葉にして伝えていこう。いい点も悪い点もだ!


 今日もキスのアタリは止まらない。とまったら数歩横に歩くだけでアタリ復活だ。

 俺は今、シロギスフライ愛好家の期待を背負っている、ドンドン釣ってカイリさんに悲鳴を上げさせてやろう。ボロ儲けの嬉しい悲鳴と捌くのがめんどくさい~という悲しい悲鳴だ。


「今日も流木は細かいのしかありませんでした、今からシロギスを監視しながら訓練を行います」


 という、スピナさんの報告を受け、「ありがとう、がんばってね」と答えてシロギス釣りに精を出した。

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