32.リーダーは、主任でもあり課長でもあり……社長なのだ!
宿に帰ってきた、まずはスピナさんの荷物を置いてきて来てもらう。
俺にはマジックバックがあるので問題ないが、スピナさんの服を、ずっと俺が持っているのもよろしくないだろう。相手は女性、男物の服だろうと女性の服を持っているわけにはいかないのだ。
マジックバックの存在は追々説明しよう。どうせ俺しか使えない設定だし、あんまり頼られてしまっても困る。いや、頼ってもらればうれしいのだが、四六時中一緒にいないといけなくなってしまうのは困る。
荷物を置いたら、まずはギルドに出勤だ。
ギルドでタイムカード……は、なかったんだな。掲示板にある依頼書を確認し、受付嬢に挨拶をしなければならない。この依頼の確認と、受付嬢への挨拶は明日からはスピナさんにお願いする予定だ。パーティーメンバーが増えたのだ、役割を分担するのは当然だろう。
「スピナさんには朝、ギルドにしゅっき……ギルドに行って、依頼の確認と受付嬢に挨拶をお願いします」
「受付嬢に挨拶ですか?」
なんで? みたいな顔をしてるな。
「この街での依頼は今まで、俺がこなしていました。新しい依頼は俺への指名依頼みたいなものだったので、今までは俺が毎日ギルドで確認していたのです。受付嬢へは依頼が掲示板以外にもないかの確認と、パーティーの近況、毎日話すことになるので話題は少ないけど、みんな元気だからとかそんな感じのことを話してきて欲しいです。さぁ、やってみてください。今日は後ろから見てます」
今まではこの街の冒険者は俺だけだったからな、指名依頼だらけだった。
スピナさんは掲示板を見て、固まっている。
「あぁ、常時依頼は特に気にしなくても大丈夫です。常時依頼を受けてもらいたいときは受付嬢からお願いされるでしょう」
特にクランクさんからのミドリ草採取依頼だな。一応常時依頼で貼り出されているが、在庫がやばくなると俺へ依頼が来る。指名依頼じゃなくて受付のお姉さんから、そろそろお願いします、みたいな感じで。
「今日は新しい依頼はないようですね。では、受付嬢へ挨拶しに行きましょう」
「はい……なんか不安です」
なにが不安なんだろう。エリーさんもルイーダさんも受付嬢のお仕事をちゃんとやっている。エリーさんも慣れてきたのか、臨機応変に対応できるようになっている。
スピナさんはエリーさんの方へ向かっていった。やはりたいていの人は若い受付のお姉さんに行くものなのか? それとも、昨日ちょっと話してるから話しやすいのか?
「おはようございます。今日は新しい依頼はありますか?あと……アタルさんは、ゲンキソウデス」
なんだ? なにをいってるんだ? それではさっき説明したことを言っているだけではないか!
この場で一番臨機応変じゃないのはスピナさんだったようだ。
「おはようございます。今のところ新しい依頼の予定はないですね。アタルさんは……元気そうですね」
んー、もしかしてこれを毎日繰り返すのか? こんな事務的な会話を毎日していたら、みんな病むんじゃないか?ちょっと助け舟をだそう。
「エリーさん、おはようございます。今日は新規の受付なさそうなので、依頼以外の仕事をすることにしますね。スピナさんですが、俺と同じ宿に泊まりながら冒険者をすることになりました。今までは俺がギルドへ毎日確認しに来てましたが、明日からはスピナさんが確認にきます。依頼がなくても挨拶はするように説明しておいたので、なにか言伝があったらスピナさんにお願いします。お願いしますね!」
大事なことなので念を押して二回お願いしておいた。一回目のお願いはスピナさんへの言伝。
二回目のお願いは全体的なフォローだ。大丈夫だよね、大丈夫だよな?
「わかりました。アタルさんはその間どこへ?」
「俺は海が荒れてなければ釣りをしています。釣った魚は少額ですが買い取ってもらえるので、活動費の足しにします」
「もしかして、たまにおいしい魚が出回ってるのはアタルさんからですか?」
「そうそう、俺は釣った魚をすぐに〆て血抜きするんで、臭みがなくて評判良いんですよ」
数より質、付加価値ってやつだな。
「そうだ、パーティーの場合、報酬の分配はどうするのが一般的ですか?」
「パーティーによりますが、活動費を取った後均等に分配したり、リーダーが多めにとったあと他のメンバーで均等にしたりですね。リーダーには責任が付いてくるのでリーダーの報酬は高めなのが一般的です」
責任問題ね。役職手当みたいなものか。ちょっと考えておこう。
「ありがとうございます。それじゃあ、よろしくお願いしますね」
もう一回よろしくお願いして、俺たちはギルドから海へ向かう。
「受付嬢への挨拶は、俺がやってた感じの雑談でいいよ。毎日、依頼確認と元気だけを挨拶していたら飽きるでしょ。それと、成人した人を呼ぶときは『さん』を付けてね。これは絶対、エスポワールの決まりだ。俺のこともアタルさんと呼べばいいし、役職……リーダーだったらさん付けはいらないからリーダーって呼んでね」
「わかりました……リーダー」
ついにリーダー認定されました。これで管理職に一歩近づいた。組織として、リーダーは管理職には当てはまらないかもしれない。しかし、このパーティーにおいてはリーダーが一番の長だ。リーダーであり、主任であり係長であり……長いな!社長だ!
なんか楽しくなってきたぞー!




