25.じいちゃんを基準にしてはいけない
俺は今、猛烈に感動している!
何に感動してるかって? 釣ってきたイワナかヤマメの魚にだ!これは、あっちの世界の岩魚か山女で間違いない。味がまさにそれだ!
部屋に戻る前に、厨房のカイリさんに塩焼きをお願いしていたのだ。
カイリさんは「こんな小魚を食うのか?」と不思議がっていたが、こいつは稚魚ではない、成魚のはずだ。
首をかしげていたので「捌かないでそのまま塩をこすり付けて焼いてくれればいいから」と念を押しておいた。
そして出来上がった塩焼きに感動している俺がいる。俺が一匹、トラが三匹、カイリさんに一匹だ。
「貰ったやつを食ってみたがうまいな! これは、なんて魚だ?」
「わかんないけど、たぶんイワナかヤマメ」
「イワナカヤマメっていうのか! また今度釣れたら持ってきてくれ!」
なんか地雷を踏んだような気がする。
俺は今まさにこの瞬間、異世界の魚に名を付けてしまったようだ。その名も『イワナカヤマメ』
んー、訂正したいけどイワナなのか、ヤマメなのかもわからない……もうこのままでいいよな。もしかしたらじいちゃんも、あとからスズキって気が付いたかもしれない。
イワナカヤマメはトラにも好評だった。
塩焼きで食うのが一番うまいよな。釣り堀で釣って焼いて食って、釣って焼いて食ってしてると、とんでもない値段になるから、渓流釣り堀ってヤバいよな。金持ちしかできない遊びだと思う。
ちなみに俺が一匹しか食べれない理由は、晩飯のボリュームがあるのでもう食べれないのだ。エールを飲みながら、チマチマ川魚を楽しもう。
まったりしていると、バタンと扉が開いた。
そこに居たのはクランクさんだ、キョロキョロ周りを見渡し、俺を見つけると駆け寄ってきた。
「アタルさん、今日ミドリ草が納品されたのですが、納品者があなたって聞きました」
「そうですけど、採取方法に問題ありました?」
「完璧でした! それよりもどこで採取したんですか? 私がお教えしたポイントは、往復で一週間はかかる場所なのですが!」
やっぱり一番遠いポイントを教えられたのか、ショックだ。信用されてなかったのか……
「そんなに遠い場所を教えられたのですか?」
「そうではなくて、一番近い群生地がそこなのです。稀に近くでも生えていることはありますが、魔力が足りないのか単体でしか採取できません」
あぁ、そういうこと。もしかして早く帰ってきすぎた? 言い訳がむずいな、ここに川魚もあるし。
「んー、走っていってきました。いやー、疲れた疲れた」
クランクさんはクワッと目を開いてこちらを見ている。眼球が顔とお腹を行ったり来たりしている。 正直にジャンプしたって言っても、それこそ嘘っぽいしな。ちょっと話題を変えよう。
「実は駆け足には自信があるんです。俺ならあのポイントまでなら日帰り可能です。そうそう、実は自分でもポーションを作ってみたんですよ。クランクさんのお仕事の邪魔をしたくないので、私的な利用のみにするつもりですが、初めて作成したので出来栄えを見てもらえませんか?」
そういってクランクさんに今日作ったポーションを手渡す。
「コレハ、ナンデスカ?」
急にカタコトになったクランクさん、シンケイツーニ、ヨネザワノカンポー! なんて言える空気ではない。じいちゃんのポーションと同じっぽいんだけどな、スキルも同じだし、出来栄えも見た感じ同じだ。問題はなさそうなんだけど……
「ポーションですよ、ミドリ草と精製水で作りました」
「ちなみにポーション瓶に入っている精製水に対して、ミドリ草はどれくらい……」
「ミドリ草一束ですね」
ポーションの成分の割合は秘匿されている可能性も考えて、クランクさんに近づきこそっと答える。
またしても目をクワっと開くクランクさん。今度は眼球が、俺とポーションを行ったり来たりしている。
なんか嫌な予感がするな。
「ミドリ草1株もあれは、10はポーションを作れるのですが、これは一体何なんでしょう」
「いや、薬師さんに質問されてもちょっと……濃くすればこうなるんじゃないですか?」
「いえ、ある一定まで解けると、それ以上ミドリ草は溶けないのです。根を粉にして入れると、少し多めに解けるのですが少しだけなので……」
これはちょっとヤバいやつを作ったかもしれない。じいちゃんも持ってたから普通だと思っていたのがまずった。
「それ……差し上げるので調べてもらえますか? もしかしたらポーションではない可能性もあるので、飲まないでくださいね」
「それでは王都に送って、専門家に鑑定してもらいますね。実に興味深い!」
なにかバックミュージックが聞こえてきそうな感じで食堂をあとにするクラフトさんを俺は見送り、エールを一気に飲み干した。これはじいちゃんが悪い……




