表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/157

22.薬師襲来

「あの、こちらにアタルさんって方が宿泊していると聞いてきたのですが……」


 ある日、男の人が宿に俺を訪ねてきた。


 緑の髪に、この世界では珍しく少しふっくらとしている。歳は俺と同じくらいだろうか? 仲良くなれそうな気がする。見た感じ、第一印象はすごくいい! とても好感が持てる。この世界の人は、ムキムキの人が多すぎるのだ。


 ちょうど俺は朝ご飯を食べていた。

 今日の朝飯は、タケダのフライだ。昨晩、揚げ物を説明したらやってみたらしい。食えなくはないが、動物の脂で揚げたせいか、なんだか獣臭い。これは油が採れる植物も探すべきなんじゃないだろうか?


「私がアタルです。なにか御用ですか?」


 必殺営業スマイルだ! 人間第一印象が大事だ。清潔感、言葉遣い、そして笑顔があれば問題ないだろう。


「あなたがアタルさんですか! ミドリ草の依頼受けてくれたとギルドで聞いたんですけど! 納品はどうなってるんですかぁー!」


 なんか目に涙をためて、ぐいぐい来るおじさん。なんか鼻水も出てないか?

 人間第一印象が大事だ! 鼻水垂らして泣きそうなおじさんの印象なんて、良くないに決まっている。俺の好感度は急速になくなっていった。


「あぁ、忘れてました」


 俺を訪ねてきたのは、薬師のクランクさんといった。


 最近めっきりミドリ草の納品がなく、冒険者ギルドに行ったら、今のところ受けているのは俺だけだと言われて訪ねてきたらしい。そうだろうね、みんな流木探しに必死だから、ミドリ草集めてる人いないんだろうね。海岸に草なんてほとんどはえてないしね。


「そんなぁ、ポーションが出荷できなくなって。次回の納品分が確保できなくなりそうなんですよ」


「いや、そんなこと言われても。依頼受けようと受付のルイーダさんにいろいろ質問したんですけど、説明が不十分で採取に向かえなかったんです」


 秘技、責任転嫁だ。こういう時は責任を誰かに請け負わせることによって、自分は責められないようにするのだ。今回はルイーダさんが、ちゃんと教えてくれなかったから行けなかったんだよと、遠回しに責任をあっちになすりつけたのだ。


「ルイーダさんは、アタルさんが薬師を探すって出て行ったって言ってましたよ」


 くそっ! すでに秘技が使われていた。俺が薬師を探しに行くって言ったから、あとは冒険者の責任ですよって言ったんだな。やるな、ルイーダさん!


「そうですか……クランクさんが訪ねてきたのは助かりました。薬師さんにどこに行けば会えるかわからなくて諦めていたんです。今から教えてもらえますか?」


 ここはスマートに対応だ。わからないものはできない、できないからわからない、だ!


「忘れてたって言ってませんでしたか?」


「言ってません!」


 認めたらダメだ、こっちの有利性が無くなってしまう。


「説明したら、採取してきてもらえますか?」


「もちろんですよ! 私は専業の冒険者ですよ? ギルドの依頼が最優先です!」


 強く冒険者をアピールしておいた、なんてったって俺は現在、ベイツの街所属冒険者のトップだ!

 唯一無二! 俺がいなくなったらベイツには専業の冒険者はいなくなる、まさに最後の砦的存在なのだ。


「私に聞かなくても、ほとんどの人の常識だと思うのですが……」


「それは違いますよ。お仕事をするにあたって、一次情報が大切なのです。薬師さんが今まで経験で得た情報が大切です。ただただ採取していた人の情報とは、価値が全く違います」


「はぁ、そういうものですか?」


 そういうものなんですよ! 又聞きなんて失敗の元だ。

 仕事であの人が言ってたからとか、あの人がこっちの方がいいってやってたからとか、今までは大丈夫だったから、なんて言葉は信用ならない。特に、今までこうやっていて大丈夫なんて言うのは聞き飽きた。そういうやつのせいで、対策という名の手間がだんだん増えていくんだ! ちゃんとやってればそんなトラブルは途中で発見できるようにこっちは仕組みを作ってるんだ。守れ!


 おっと、ここは異世界。クランクさんには関係ないことだった。


「それでは、疑問点をあげていくのでお答えください」


 1.ミドリ草とはどんな草なのか

 2.ミドリ草の生えている場所

 3.ミドリ草の採取方法と保管方法

 4.ミドリ草の採取できる時期


 ここら辺聞いとけばひとまずいいかな?わからないことができたら、クランクさんにまた聞こう。


 クランクさんは丁寧に教えてくれた。やはり薬師さんの話は為になる。なにがミドリの草だ……ルイーダさんめ!


 まず、ミドリ草の現物を持ってきてくれていた。ヨモギみたいな草で魔力が豊富な土にはえているらしい。具体的な場所を聞いてみると、本当は内緒ですが……とクランクさんが採取しているポイントを教えてくれた。自分で採りに行けばいいのにね?


 採取方法は根があるとポーションの質が上がるらしい、根ごと採る場合は少し残しておくことで、しばらくするとまたミドリ草が繁殖する。生命力がつよい薬草だからあっという間に生えるらしいが、採りきってしまうと、そこに生えるには時間がかかるから、みんなポイントを教えないそうだ。

 根ごと採取した場合は土をしっかり落としておかないと、魔力を含んだ土がなくなり生えにくくなるから、気を付けて欲しいそうだ。季節は特にないらしい、一年中成長する、雑草みたいだな……冬も成長するが雪で探すのが大変だから、秋までに冬の分を確保し、春に備えるらしい。


「ありがとうございます。ではさっそく今日ミドリ草採集に行ってみますね。」


「助かります! よろしくお願いします」


 自分で採りにいかないところを見ると、ポーション作りは手間暇がかかるのだろう。

 クラフトでポーション作りも儲かるかなと考えたが、クランクさんが生活できなくなりそうなのでやめとこう。ミドリ草採取のついでに、自分用のポーションだけ作っておけばいいだろう。ついでにじいちゃんのポーションと比べてみよう、もしかしたら違いがあるかもしれない。


「よし、今日はミドリ草採取だ! 行くぞトラ!」


 食器を厨房へ持って行き、俺はトラと、クランクさんの採取ポイントに向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ