18.シーバスの和名はタケダじゃねーよ!
先に謝らせてください。
全国のタケダさん、ご気分を悪くさせてしまったらすみません。
トラがおかしなことを言いだした。コイツがタケダ?
「このシーバス……タケダっていうのか?」
『トシオが昔、タケダって言ってたニャ。今もそう呼ばれているはずニャ』
じいちゃん何やってんだよ。本日一番のえらいこっちゃだ!
「シーバスはスズキって言うんだよ。じいちゃんなに間違って広めてるんだよ」
まさか、カツオもサザエとかワカメって言ってるんじゃないだろうな? ちょっと知るのが怖くなってきたぞ。
『タケダはどこでも獲れるから名前がなかったニャ。トシオが名前を知ってるって言ってタケダになったニャ』
どこでも獲れるって、こんなのがウヨウヨいんのか。海水浴はできないな。
っていうか、じいちゃん適当なこと言うなよ~、あとで街に行ったら本当なのか確認しよう。
あ~でも、さっきの引きは強烈だった。忘れられない、癖になりそうだ。釣り人にはここは天国かもしれない。
「トラ、俺はしばらく釣りをするから、流木を探してきてくれないか?」
『あとで一匹くれるならいいニャ。でも、この体のままだと持ってこれないニャ』
「……マジックバッグを背負っていけば、回収出来たりしないか?」
『そのバッグはアタルしか使えないニャ』
ちょっと不便だな……
「じゃあ、ある場所覚えてきて、あとで回収に行くよ」
『行ってくるニャ、あと釣れなくてもその一匹は、オイラのニャからな!』
そういってトラはテクテク歩いて行った。こうやって見ると普通の猫なんだけどな~。実際の大きさは虎並みだから、もしかしたら宿の食事だと足りなかったのかもしれないな。よし、いっぱい釣ってトラの食費を抑えよう!
結果的には大量だった、まさに入れ食い状態! 釣りをする人がいないから、スレていないのだろう。シーバスなんて警戒心が強すぎて、難易度めっちゃ高かったのにね。
高かっていうか、釣れたことなかったから……家に置いてきた釣り具には、シーバス用のルアーたくさん残ってた。いろんなルアーを試してみたけどさっぱりダメだった。
そろそろ腕が疲れてきた、明日は筋肉痛間違いないだろう。
もしかしたら筋肉スリーまでいっちゃうかもしれない、明日が怖い。
「トラが戻ってきたし流木回収して帰るか……」
『タケダが樽に刺さった駄作の剣に見えるニャ』
「タチウオじゃないんだし……これでも血抜きが済んだシーバスは、マジックバックに収納したんだよ」
正直樽に入りきらなかった。13本も釣れたんだぜ! いやー、楽しかった。
「よし、流木を回収して帰ろう。宿屋の壁も気になってるんだよ」
『誰も拾わないみたいだから結構見つけたニャ。きっと足りるニャ』
トラの言う通り、流木は結構な量になった。
っていうか、猫の行動範囲って広いんだな……かなり遠くまで歩いてきた。
良さげな釣りポイントも見つけられたし、流木を獲りに来て正解だった。
街に戻り門番の兄ちゃんに声をかける。
「あのー、魚を買い取ってくれる場所ってないですか?」
「魚? どんな奴だ?」
「たぶんタケダって呼ばれると思うんだけど……」
「タケダか! うまいよな! 漁師が買い取ってくれるけど、朝じゃないと買い叩かれるな。あとは食堂なら買い取ってくれるかもしれない」
「わかりました、ありがとうございます。じゃあ、これギルドカードです」
「はいよー!」
魚は朝じゃないと売れないか……食堂って言われてもなぁ。泊ってる宿屋と冒険者ギルドしか知らないからな。カイリさんに買い取ってもらえるか聞いてみよう。なんならあげちゃってもいいしね。
「ただいまー。カイリさんいます?」
なぜか食堂にはたくさんの人が集まっていた。そして俺が入った瞬間、全員がこっちを向き無言になる。
なんかみんな必死だな、どうした?
「おぉ、アタルおかえり! みんなお前を待っていたんだぞ」
カイリさんは笑顔だったが、絶対笑い事じゃないことが起きる確信があった。




